インボイス制度とは?知らないとマズい請求書の基礎知識

最終更新日:2020年12月17日

インボイス制度の実施により、事業者の状況は大きく変化する可能性があります。そこで今回は、インボイス制度の概要やポイントに加えて、経営者が意識しておきたい準備や条件などをまとめました。

従来制度との違いや新しい適格請求書の書き方についても解説しているので、不安を感じている経営者はぜひチェックしていきましょう。

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目次

インボイス制度とは

インボイス制度の必要性

インボイス制度による影響

インボイス制度に対応するための条件

適格請求書の書き方

インボイス制度の概要を理解し、早めの準備を

インボイス制度とは

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、仕入税額控除の新たな方式として設けられた制度のこと。この制度が実施されると、他社から商品・サービスを購入する事業者は売り手が発行した「インボイス(適格請求書)」を保存しない限り、消費税の仕入税額控除を受けられなくなります。

また、インボイス制度では商品・サービスの売り手(課税事業者)に対しても、以下の2つの義務が課せられます。

【1】課税事業者から求められた場合に、インボイスを交付すること
【2】交付したインボイスのコピー(写し)を保存しておくこと

つまり、インボイス制度が実施されると事業者同士の取引の形が変わってくるので、特に他社から仕入れを行う事業者は、制度の概要を正しく理解しておくことが必要です。

従来の請求書等保存方式との違い

インボイス制度の実施が決まる以前にも、仕入税額控除に関しては「請求書等保存方式」と呼ばれる制度が実施されていました。また、インボイス制度が実施されるまでには期間が空くため、従来制度からのつなぎとして「区分記載請求書等保存方式」の実施がすでに決まっています。

  • 請求書等保存方式…2019年9月まで実施されていた制度
  • 区分記載請求書等保存方式…2019年10月~2023年9月まで実施される予定の制度

インボイス制度が導入されると、売り手側が交付する請求書の記載内容が変わってきます。では、具体的にどのようなポイントが異なるのか、それぞれの制度の違いを簡単に紹介しましょう。

主な違い 請求書等保存方式 区分記載請求書等保存方式 インボイス制度
軽減税率の対象品目である旨の記載 不要 必要 必要
税率ごとの合計金額 不要 必要 必要
適用税率 不要 不要 必要
税率ごとに区分した消費税額 不要 不要 必要
事業者登録番号 不要 不要 必要

2019年10月以降に実施された区分記載請求書等保存方式からは、請求書に「軽減税率の対象品目である旨の記載」と「税率ごとの合計金額」を記載することが義務づけられています。具体的には、軽減税率の対象品目に※印をつけたり、「消費税8%」と「消費税10%」に区分して合計金額を記載したりしなければなりません。

さらに、インボイス制度の実施後には、「適用税率」や「税率ごとに区分した消費税額」、「事業者登録番号」の記載も義務づけられます。

いつから始まる?

インボイス制度は2023年10月1日から始まる制度ですが、実施後すぐに仕入税額控除を受けるには、原則として2023年3月31日までに申請手続きを済ませる必要があります。税務署長に登録申請書を提出しない限り、仕入税額控除は適用されないので、登録申請は早めに済ませておきましょう。

ちなみに、インボイス制度の登録申請書は2021年10月1日から提出できます。

インボイス制度の必要性

では、インボイス制度はなぜ新たに導入されることが決まったのでしょうか。インボイス制度は事業者に深く関係する制度なので、制度実施の背景についても正しく理解しておきたいところです。

そこで次からは、インボイス制度の必要性をまとめました。

消費税額を正確に把握するため

インボイス制度の主な目的としては、まず「消費税額を正確に把握すること」が挙げられます。

日本国内の消費税率および地方消費税率は、2019年10月1日に8%から10%へと引き上げられました。それと同時に、飲食料品などを対象とした軽減税率制度が実施された影響で、改正されるまでは8%と10%の2つの消費税率が混在する状況になります。

このような状況下で従来の請求書を用いると、各取引の消費税額のチェックに時間がかかります。例えば、消費税率8%と消費税率10%の商品を同時に購入した場合は、経理処理の際に2つの商品の消費税額を細かく調べなくてはなりません。

その点、インボイス制度が実施されると「税率ごとの合計金額」が請求書に記載されるため、ひと目で各取引の消費税額を確認できるようになります。

税率を正確に把握するため

8%と10%の消費税率が混在する現在では、各取引の税率を正確に把握することも必要になります。例えば、各取引の全体的な消費税額が分かっても、税率が分からなければ事業者はスムーズに経理処理を進めることができません。

そのため、インボイス制度では「軽減税率の対象品目」や「適用税率」に関する記載を義務づけることで、企業の経理処理の負担を抑えています。

不正やミスを防ぐため

事業者の不正やミスを防ぐ点も、インボイス制度の重要な目的です。

インボイス制度が実施されると、請求書には消費税額・消費税率を細かく記載する必要があるため、仕入金額をごまかすような不正はすぐに発覚します。また、請求書をチェックするだけで消費税額・消費税率を簡単に把握できるので、経理処理におけるミスも確実に減少するでしょう。

インボイス制度による影響

インボイス制度の実施による影響は、事業者の立場によって変わります。そこで以下では、課税事業者・免税事業者のそれぞれに及ぶ影響をまとめました。

課税事業者の場合

売上高が1,000万円を超える課税事業者は、インボイス制度の実施によって主に以下のような影響を受けます。

【1】免税事業者や消費者との取引に関して、仕入税額控除が適用されなくなる
【2】税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する必要がある
【3】新たな経理システムが必要になる

上記のなかでも【1】は、経営者が特に押さえておきたいポイントです。インボイス制度が実施されると、適格請求書発行事業者以外から仕入れを行った場合に、原則として仕入税額控除が適用されなくなります。

下記の通り、一定期間は経過措置による控除を受けられますが、この経過措置も段階的に廃止されることが決まっているので注意しておきましょう。

適用期間 控除割合
2023年10月1日~2026年9月30日まで 仕入税額相当額の80%
2026年10月1日~2029年9月30日まで 仕入税額相当額の50%

なお、上記の経過措置の適用を受けるには、「区分記載請求書等と同様の請求書」と「経過措置の適用を受けることを記した帳簿」の保存が必要になります。

免税事業者の場合

売上が1,000万円以下の免税事業者は、インボイス制度が実施されると「適格請求書発行事業者以外」に該当します。つまり、課税事業者と取引をした場合、相手方の企業には仕入税額控除が適用されなくなるので、取引先から「課税事業者に登録してほしい」と頼まれるかもしれません。

もしこのときに断ると、取引先との関係性が解消されてしまう恐れがあります。一方で、課税事業者として登録をする場合についても、登録以降は取引の度に消費税を負担することになるので、課税事業者になるかどうかは慎重に判断することが大切です。

インボイス制度に対応するための条件

ここまで紹介してきたように、インボイス制度が実施されると課税事業者・免税事業者のいずれも状況が変わります。では、インボイス制度にスムーズに対応するには、どのような準備や条件が必要になるのでしょうか。

課税事業者の準備や条件

課税事業者に該当する場合は、インボイス制度の実施までに以下の準備に取り組む必要があります。

  • 期限までに適格請求書発行事業者の登録申請書を提出する
  • インボイス(適格請求書)の記載内容をまとめる
  • ソフトウェアの導入など、新しい請求書の発行体制を整える

インボイス制度が実施されると、課税事業者はこれまでとは異なる様式の請求書を発行する必要があります。例えば、従来のソフトウェアではインボイスの発行に対応できなくなる可能性があるため、請求書の発行体制は余裕をもって確認しておきましょう。

免税事業者の準備や条件

次に、免税事業者の主な準備を見ていきましょう。

  • 課税事業者として登録するか検討する
  • 課税事業者になることを決めたら、上記の「課税事業者の準備」に取り組む
  • 売上の減少や税負担の増加に備えて、今後の経営方針を検討する

免税事業者に該当する企業は、今後の経営方針を慎重に考える必要があります。仮に課税事業者として登録をする場合は、これまで支払ってこなかった消費税の負担が生じるので、その負担分をまかなえるような経営戦略を立てなくてはなりません。

また、免税事業者のまま経営を続ける場合も、取引先との契約が解消される恐れがあるため、今後の経営方針を練ることは必須です。どのような状況になってもスムーズに対応できるように、インボイス制度による状況の変化を意識しながら、慎重に経営戦略や経営方針を考えていきましょう。

適格請求書の書き方

最後に、インボイス制度の適格請求書の書き方について解説します。様式に関するルールは特にありませんが、適格請求書には以下の6つの情報を記載しなければなりません。

記載が必要になる事項 概要
1.適格請求書発行事業者の情報 氏名または名称、および事業者登録番号を記載する。
2.課税資産を譲渡した時期 商品やサービスを販売(譲渡)した年月日を記載する。
3.譲渡した課税資産の内容 販売(譲渡)した商品やサービスの名称を記載し、軽減税率の対象となる資産については「※印」をつける。
4.課税資産の価格と適用税率 販売した資産の価格を税率ごとに分けて記載する。また、適用税率についても記載する必要がある。
5.税率ごとに区分した消費税額 消費税率8%と消費税率10%に分けて、消費税額を記載する。
6.交付を受ける事業者の情報 適格請求書を受け取る事業者の氏名、または名称を記載する。

上記の通り、従来の請求書等保存方式とは記載内容が大きく異なるので、一つずつ確認しながら適格請求書の発行体制をしっかりと整えておきましょう。

インボイス制度の概要を理解し、早めの準備を

インボイス制度の実施によって、事業者の状況は大きく変わることが予想されます。特に免税事業者は、今後の売上にも影響が及ぶ可能性があるため、経営戦略や経営方針を慎重に練り直さなくてはなりません。

課税事業者・免税事業者のどちらを選ぶ場合でも、インボイス制度に向けた準備は確実に必要になるので、制度の概要を理解した上で早めに準備に取りかかりましょう。

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公開日:2020年11月18日