「退職所得の受給に関する申告書」退職金で気をつけたいこと

最終更新日:2020年05月11日

勤めている企業を退職すると受け取れるものとして、退職金があります。
退職金は退職後の生活において非常に重要であり、金額もそれなりに大きいものになります。
金額が大きいと同時に気になるのはその税金。退職金はそう何度も貰う機会がないため、なかなかその税金について理解している方も少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、退職金と深い関係を持つ退職所得から税金の計算方法に加え、企業でするべき処理まで幅広く解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。

目次

退職所得とは?

退職所得の受け取り方法

「退職所得の受給に関する申告書」とは?

退職所得と確定申告

退職所得の計算方法

退職所得控除額の計算方法

退職所得の申告期限と会社側の処理

まとめ

退職所得とは?

まず、退職所得について簡単に説明します。
退職所得とは、退職をきっかけに勤務先から受けられる所得のことです。
もちろん退職金そのものも含まれ、社会保険制度から支給されるものや生命保険会社から受け取れる退職一時金も含まれます。
他にも、解雇予告手当や労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当しています。

退職所得の受け取り方法

退職所得の受け取り方法は2つの種類があります。

・一時金として受け取る
・分割して受け取る

このような方法があり、それぞれメリットとデメリットもあります。
ひとつずつ解説していきます。

一時金受け取り

一般的に退職所得を受け取る時のイメージは一時金で受け取るものではないでしょうか。一時金受け取りとは、まとまったお金を一度に受け取ることです。
まとまったお金を受け取るので、住宅ローンの繰り上げ返済やリフォーム費用に充てるといった、金額が大きいものに対応できます。
しかし、その一方で銀行に勧められ投資信託を購入し退職金を減らしてしまうケースも。
他にもいわゆる「孫破産」と呼ばれるもので、孫に多額の教育資金を渡してしまい、自分たちの老後の生活が苦しくなるといったこともあります。

やはり、人間の心理として、まとまったお金が入ると羽振りが良くなってしまうものです。しかし、退職所得は老後の生活として非常に大切なもの。
使い道を慎重に考えなくてはいけません。

分割で受け取る

退職所得を分割で受けることも可能です。
これは退職年金と呼ばれており、本来まとまって支給される退職所得をある程度の期間分割して受け取る方法です。
これにより一時金のようにまとまったお金が入ることもなく、定期的な収入として考えることが可能になります。
さらに、一定の予定利率による利息も加算されるため、一時金よりも合計で受け取る金額は多くなります。

ただし、退職した企業が今後倒産するリスクも。
他にも、不動産所得や事業所得などの雑所得を合わせて計算するため、一時金よりも高い税率が適用されてしまうこともあります。
このようなことから、一般的には一時金として退職所得を受け取り、自身で運用していく方が多くなっています。

「退職所得の受給に関する申告書」とは?

退職所得の受給に関する申告書とは退職金を受け取る際に提出をする書類で、以下のようなものです。

退職所得の受給に関する申告書

出典:国税庁HP

この書類の提出によって、企業は退職所得の支払者が所得税や復興特別所得税額の計算を行い、所得金額に応じた源泉徴収を行います。
そのため、退職所得の受給に関する申告書を提出しておくと、確定申告の必要は原則としてありません。
一方、未提出の場合は20.42%の源泉徴収が行われることになり、受給した本人が確定申告を行い精算することになります。

退職所得と確定申告

上記のように「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、確定申告の手間はなく退職所得の受給に関することも他にはありません。
しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに確定申告をしたほうがいいケースもあります。
そのケースは主に2つあります。

・年の途中で退職し再就職をしなかった場合
・他の赤字所得がある場合

こちらはひとつずつ解説していきます。

年の途中で退職し再就職をしなかった場合

年の途中で再就職をしなかった場合は、退職年の所得が少なくなります。
そうなると、社会保険料控除や生命保険料控除・配偶者控除などの所得控除を全て控除できていないことも。
つまり、所得が小さく、源泉徴収された額が多すぎてしまうことがあるのです。
この場合には、退職所得を含めて確定申告を行えば、源泉徴収税の還付が受けられる場合があります。

他の赤字所得がある場合

退職者に他の赤字所得がある場合も、確定申告を行った方が良い場合があります。
ここで言う他の赤字所得とは、不動産所得や事業所得などのことです。
たとえば、退職した年の不動産所得が赤字になった・退職後に事業を始めたものの赤字経営である場合などは、確定申告において退職所得と損益通算ができます。

損益通算とは一定期間内の利益と損失を相殺することであり、損失が出た場合利益から差し引くことで税金を減らすことができます。
さらにそれでもマイナスが出ている場合は、確定申告で最長3年間の損失繰越も可能という制度です。
ただ、これは退職所得と損益通算する前にひと手間かかってしまいます。
事業所得や不動産所得の赤字を給与所得・配当所得・雑所得とで、先に損益通算をしておく必要があるのです。

退職所得の計算方法

では、ここからは確定申告を行う場合の、退職所得の計算方法について解説します。
退職所得は原則として、他の所得とは切り離して所得税額を計算しています。
その金額は以下の計算式に合わせて数字を出していきます

(収入金額(源泉徴収される前の金額)-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

また、確定給付企業年金規約に基づいた退職一時金のような場合で、従業員自身が保険料や掛け金を負担しているケースもあります。
その場合は、その支給金額から負担した金額を差し引いた残りを退職所得の収入金額としています。

退職所得控除額の計算方法

退職所得の計算式で出てきた退職所得の控除額については別途こちらで解説します。
退職所得控除額の計算式は以下の通りです。

退職所得控除額の計算式

出典:国税庁HP

ここに記載されている勤続年数に関しては端数切り上げとなります。
たとえば、勤続年数10年1ヶ月の方の場合は11年として計算します。
このあたりは退職するタイミングによって、控除額が変わることもあるのでしっかり確認しておきましょう。
また、記載されているように退職の直接の原因が障害者になったこと出会った場合は計算額に100万円の控除を加えます。
さらに、前年以前に退職金を受け取った同一年中に2ヶ所以上から退職金を受け取ったといった場合。
このようなケースだと、控除の計算が異なることもあるので合わせて注意しておきましょう。

源泉徴収税額の計算方法

退職所得と退職所得控除額の二つが計算できたら、源泉徴収税額を導き出せます。
具体的には退職所得の金額に所得税の税率をかけ、所得税の控除額を差し引いた残りの金額が所得税額になります。
所得税額と配当控除といった、基準所得税額に2.1%をかけて計算したものが源泉徴収税額となります。
それぞれ以下の表を参考にしてみてください。

源泉徴収税額の計算方法

出典:国税庁HP

源泉徴収税額

出典:国税庁HP

退職所得の申告期限と会社側の処理

ここからは、退職所得の申告期限と会社側の処理について解説していきます。
お伝えしたように退職所得をもらう側としては確定申告を行ったり「退職所得の受給に関する申告書」を提出したりすれば行う必要はありません。

ただし、会社を設立したり、事業を開始したりして支給する側になった場合には知っておくべき知識です。
流れとしては以下のようなものになります。

1.退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る
2.市区町村に特別徴収(給与所得者)異動届出書を提出する
3.住民税の支払い
4.源泉所得税の支払い

ひとつずつ解説していきます。

1.退職者から「退職所得の受給に関する申告書」を受け取る

退職者に対して退職所得の受給に関する申告書の提出を促します。
この申告書は税務署や市区町村に提出をする必要はなく手元に保管しておきますが、
提示を求められた場合は、速やかに提示をします。

2.市区町村に特別徴収(給与所得者)異動届出書を提出する

特別徴収異動届書は退職した役員や従業員に対して、今後は住民税の特別徴収をしないことを退職した年の1月1日に住む市町村に報告するものです。
特別徴収を行っていない場合は提出の必要はありません。

3.住民税の支払い

特別徴収した住民税は、退職金を支給した翌月の10日までを期限に納付します。
「特別徴収納入書申告書」に必要事項を記載した上で住民税を支払いましょう。
ただし、以下の場合は多少手続きの方法が異なることがあります。

・役員に退職金を支給した場合
・役員に分割で退職金を支給した場合
・退職金の支給を同時期に複数人に行った場合

役員に退職金を支給した場合
役員に退職金を支給した場合は、通常の手続きに加えて書類が必要です。
「退職所得の源泉徴収票」と「特別徴収票」を市区町村には退職後1ヶ月以内・税務署には退職した翌年の1月末日までに提出します。
提出先によって、提出期限はそれぞれ異なっているので注意が必要です。

退職金を分割で役員に支給した場合
退職金を分割で役員に支給した場合は「分割申請申告書」を市区町村に提出します。
住民税が発生した場合の納付期限は翌月の10日までとなっています
ただしこれは必ず必要というわけではなく、市区町村によって不要になることも。
もし該当した場合は、事前に確認を取っておきましょう。

退職金の支給を同時期に複数人に行った場合
退職金の支給を同時期に複数人に行なったときは「特別徴収納入申告内訳書」を作成・提出することがあります。
こちらも分割申請申告書と同様に、市区町村によっては必要ない場合があります。
「特別徴収納入申告内訳書」は「誰からどれだけの税額を徴収したか」という内訳を報告するものです。

4.源泉所得税の支払い

退職金に源泉所得税が発生する場合は、通常の源泉所得税の納付書に退職金の明細を記入して支払います。
納付期限は給料の源泉所得税と同様で、納期の特例を受けているならば、その特例期限までとなっています。

まとめ

このように退職金の受給と言っても、税金が絡んでくるため場合によっては非常に複雑になってしまいます。
受給側としては「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば大きな手間はないものの、それ以外だとなかなか骨が折れる手続きになるかもしれません。

また、税金である以上、受給者によって様々な控除のケースも考えられますし、正しい処理を行わなければ信用関係に影響することもあります。
この記事を参考に基本的な知識を学んだあと、不明点や不安があれば最寄りの税務署に問い合わせてみるといいかもしれません。

公開日:2019年11月27日