家をスペックではなく、暮らし方で選ぶ時代を-株式会社コリッシュ 代表取締役 小原憲太郎さんインタビュー

公開日:2017年02月17日
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ここ数年で新しい居住形態として定着した「シェアハウス」。元社員寮やホテル、オフィスビルなどをリノベーションしてシェアハウスへと再利用するケースが多い。

シェアハウスを簡単に言えば、共同利用できるスペースを持つ賃貸住宅。普通のアパートやワンルームマンションと違い、住民同士の交流があるのが最大の特徴と言えるだろう。

そんなシェアハウスのポータルサイト「colish(コリッシュ)」を運営するのが、株式会社コリッシュの小原憲太郎さんだ。現在日本でもシェアハウスのポータルサイトは数多く存在するが、colishは「コンセプト型シェアハウス」に特化しており、小原さんの知る限り、海外にもこうしたサイトは存在しないとのこと。

今回、学生時代から新しいWebサービスをつくってきたという小原さんがcolishを立ち上げた経緯について、お話を伺った。

大学卒業後にWebサービスで起業

小原さんは神奈川県横浜市出身。高校まで横浜で過ごし、その後、京都にある立命館大学政策科学部に入学。このとき、環境問題を扱いたいという漠然とした想いがあった。

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「僕が大学に入ったのが2001年。世間的にも環境問題について盛り上がっていた時期でした。でも、すごく信念があった感じではありませんでした」

政策科学部を選んだのも、理系でなくても環境問題にアプローチするには良い学部だろうという考えからだった。言い方は悪いが、ごくごく普通の大学生だったと言える。

小原さんは、大学時代にWebサービスの開発を手掛けた。そのサービスとは、興味や関心により人と人をつなぐサービス。現在のFacebookの機能に加えて、ユーザの興味・関心を自動的に判定し、タグ付けしていきキーワードに関連の深い人やグループ、イベントが地域別に表示されるというもの。

mixiの登場が2004年。まだSNSがそれほど世間に浸透していなかった時代に、単純につながるのではなく、興味や関心を自動で解析して共通点でつながっていく、当時では一歩先を行くSNSサービスのような感じだ。同じ興味・関心、志を持つ人や場に出会えれば、クリエイティブな何かが始まる。そういうきっかけを生むプラットフォームをつくりたかったという。

このサービスを大学3年生のときにスタートさせ、4年生のときに正式にサービスインした。卒業せずに敢えて1年休学し事業の運営に注力する道もあったが、退路を断ってやるべきだと判断。内定も辞退し、卒業後に法人化した。

「当時就職活動もしていて、内定もいただいていました。起業するつもりではなかったのですが、つくっていたものがおもしろくなり、会社にしたという感じです」

しかし、サービスとしてはおもしろいものの、なかなかユーザ数を増やせずにいた。また、ビジネスディベロプメントにおいても力不足であった。当時はまだWebサービスで収益を上げるのが簡単ではない時代。大学卒業後1年くらいしてから、会社をクローズ。そして、携帯電話系のコンテンツ開発を行う会社に就職する。

転職。そして業務時間外で新規開発に取り組む

「企画営業の仕事をしていました。その会社を選んだのは、受託開発と自社サービスの開発が両方できるからでした。しかし、部署としての収益の柱も社内リソースの配分の仕方も、優先順位の上位は受託開発と保守業務。自然と『世の中に一石投じよう』というマインドよりも『要望に応えてしっかり良い物をつくります』という姿勢の方が強くなってしまうことは想像いただけると思います。IT業界のトレンドの移ろいは早いので、常にアンテナをはっていろいろなサービスを実際に自ら使い込む必要があります。しかし、ソーシャルメディアが盛り上がってきた頃、FacebookにもTwitterにも疎い人が社内には少なくありませんでした。入社後、数年してもそうした状況は大きく変わらず、受託開発や保守業務にほとんどの時間を費やす日々。あっと驚くようなサービスをチームでつくっていきたいと思い描いていましたが、現実とのギャップに悶々としていました」

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それでも、小原さんは何か自分たちでつくりたいと思い、部署外にも呼びかけて社内で有志のメンバーを集め、早朝や深夜、休日を使ってサービスをつくる。それが、Twitter上で対談を行うサービス「Twi談」だ。”ネット選挙”という言葉が注目を浴びていた当時、著名な議員さんや芸能人、ジャーナリストとの対談を実現。

「当時、一人で悶々としていましたが、同じように問題意識と熱意を持っていた人が、部署内外に少ないですが確かにいました。それぞれ自分の仕事をこなした後、ほぼ業務時間外でやるという制約の中でプロジェクトを進行し達成。その時のメンバーとの体験はとてもすばらしく、なんとか形にできた達成感がありました」

プロジェクトが成功した一方で、通常の業務をやりながらつくれるサービスには限界があると感じた小原さんは会社を辞めようと思っていた。そんなときに、転機が訪れる。

スタートアップウィークエンドを機に独立

東日本大震災が起きた2011年。小原さんは週末で新しいサービスを立ち上げるワークショップ「スタートアップウィークエンド」に参加。そこで、colishの原型となるサービスをつくりあげた。

「これまで、会社ではしっかり設計してしっかりつくるということが当たり前でした。それは非常にお金と時間がかかりますが、スタートアップウィークエンドは50時間くらいでサービスの原型ができてしまった。技術力のある人と想いがある人が出会うと、こんな短い時間でもできあがるということを実感したんです」

衝撃を受けた小原さんは、colishを続けることを決意。以前から退職の意向は伝えており、実際に数ヵ月後には会社を辞め、フリーランスとなった。

colishは学生時代の体験がベース

コンセプト型シェアハウスというアイデアは、小原さんの学生時代の体験にもとづいている。

「僕が大学時代に住んでいた京都には一風変わった“町家コミュニティ”があったんです。まだシェアハウスという言葉がない時代に、一軒家を複数人でシェアして住んでいました。そこには自分が信頼できる友だちだけ連れてこられます。鍵は24時間365日開けっ放しですが、知らない人は入れません」

このコミュニティは排他的ではなく、自分たちが「この人は」と思う人を紹介していくことで、安心して心をオープンにし、濃密な人間関係を形成することができた。実際、当時の京都で活躍していた学生たちや起業家、なかには議員さんが、この町家コミュニティに出入りしていたほどネットワークが広かったそうだ。

小原さんは、その町家コミュニティからスピンアウトし、エンジニアなどともうひとつのシェアハウスを拠点にして寝食をともにしながら先のWebサービスの開発を行っていた。そのときに感じたことが、colishにつながっているのだという。

「同じ想いを持った人と、場や家を共有すると新しいものが生まれたり、おもしろい体験ができたりすることをその2ヵ所で体験してきました。そこで、環境に配慮して暮らしたい人が一緒に住むシェアハウスや、音楽家向けのマンションなど、いろいろなテーマのシェアハウスやマンションがあれば、もっといろいろなコラボレーションが生まれるのではないかと思ったんです」

累計500件のコンセプト型シェアハウスが掲載されるポータルサイト

フリーランスとして独立後、数年間シェアハウスの企画運営や、Webのコンサルタントとして活動し、株式会社コリッシュを設立。colishはサービス開始から5年を経て、現在まで累計500件ほどのシェアハウス情報が掲載されるようになった。それだけではなく、小原さんが企画してつくったシェアハウスの運営も手がけている。

これまでに、プログラマー向けのシェアハウス「PGハウス」、外国人と日本人が住み英語と日本語の学び合いができる「家中留学」などを運営。そして、現在力を入れているのが「LOCALIFE(ローカライフ)」というコンセプトシェアハウスだ。

LOCALIFEは、異文化交流に興味がある人や英語を上達させたい人たちが集うシェアハウス。ただそれだけではなく、1部屋はゲストルームとして開放し、日本人と交流したい外国人旅行者を受け入れるというもの。旅行者は無料で宿泊できる。

「colishは、投稿型のポータルサイトのため、コンセプトのあるシェアハウスの住人募集など自由に投稿できます。今後はこちらも課金制にしてマネタイズをしていきたいと思っています」

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▲小原さんが手がけた「PGハウス」。入居者たちが勉強会を行っている。

自分がいいなと思うものを事業化していきたい

小原さんは、大学卒業後に起業し、その後就職。そしてcolishを立ち上げた。さまざまな経験をしてきているが、それまでやっていた仕事を辞めるときは、どんな気持ちだったのだろうか。

「会社を辞めて独立しようという強い想いがあったわけではありませんでした。いいなと思うサービスを事業化していくのが一番の目的だったので、それができれば企業への就職でもよかったんです」

colishを立ち上げるときには、すでに結婚をしていた。会社を辞める1年半ほど前に結婚式をしたため、貯金も半年分ほどの生活費しかなかったという。

「リスクはあると思いましたけど、一生懸命やって半年で結果が出なかったら、一旦起業の道からは撤退し、転職するのも1つの選択肢と思っていました。それと、嫁さんも学生時代からの付き合いで、私の性格を分かってます。不安はもちろんあったと思いますが、快く背中を押してくれたのは大きかったです。」

いい体験を提供できたことに感じる喜び

会社を辞めるときは、colishをメインのビジネスとしてでなく、やりたいと思っていたサービスをいろいろな企業に持ち込んで実現しようと考えていたという。

また、ソーシャルメディアが興隆してきた当時、Facebookなど世界中のインターネットサービスに精通していた自負もあり、コンサル業なども視野に入れていたそうだ。要は、何かしら仕事はつくれるだろうと楽観的に考えていたということだ。

colishが扱うコンセプトシェアハウスは、シェアハウスそのものが黎明期の頃に始まる。スタート当時は10件ほどしか登録がなかった。「コンセプト型シェアハウス」そのものが市場に存在していなかったことも理由のひとつだ。

小原さんはcolishというWebサービスを展開するだけでなく、実際にプログラマー向けのプログラミングが学べるシェアハウス「PGハウス」を企画。物件が決まっていない状態で募集を開始し、70名ほどが説明会に参加。物件が決まる前には、20名以上の申し込みがあった。

その状態を目の当たりにして、事業としてやっていけると決断。

「僕らが打ち出しているのは、物件ではなくて、そこにある暮らしから何が得られるのかという体験価値。それがきちんと伝わったと思ったんです。業界的には物件無しでコンセプトだけで集客するのは考えられないことでした。でも、やってみたら実現できたため、とても自信になりました。業界のルールや慣習を知らなかったからこそできたのかもしれません。」

その後、家中留学、LOCALIFEを始めたのは前述の通り。苦労することは多いというが、その分楽しいことも多いという。

「住人同士が集まって楽しくやっているとき、まさに自分が思い描いていたものだと実感します。退去する人からお手紙や電話で連絡をもらい、『ここに住めてとてもよかった』と言っていただけると、そういう体験を提供できてよかったと思いますね」

撤退ラインを決めておいてどんどんチャレンジする

起業、転職、独立と経験をしてきた小原さんに、転職や独立の際に大事なことを尋ねた。

「やってみたらいいと思うんですよ。やらないと分からないこともたくさんありますし。フランチャイズならば、売るものが決まっていてマーケティングは本部がやってくれるというモデルができあがっているので、失敗は少ないと思うんです。僕らのように、自分でサービスをつくる場合は、そのサービスが世の中に求められているかどうかも分からない。不確定要素だらけです。だから、撤退ラインをあらかじめ決めておいて、どんどんチャレンジしてみるのがいいと思います」

もうひとつ、やりたいことがあればどんどん人に話していくのがいいと語る。

「チャンスは人が連れてきてくれるということは、絶対あると思います」

実際小原さんも、思いついたアイデアは他人に話すようにしているという。すると、空き物件の話などが集まってくるようになったという。

自分一人で考えているだけでは、なかなかチャンスが巡ってこない。しかし、自分の考えを他人に伝えることで、チャンスの種があちこちにまかれ、どこかで芽吹くかもしれない。これはどんなビジネスにも当てはまることだろう。

シェアハウスのフランチャイズ化も視野に

小原さんは、今後どうしていきたいのだろうか。

「直近では、LOCALIFEの大型物件をつくりたいと思っています。できれば家族向けのものもやってみたい。単身者だけでなく、子どもを持つ親がそこに住むだけで、さまざまな国から来た外国人と毎日接することになる。結果的に子どもが自然と海外のことに興味を持ち、英語にも興味を持って話したくなると思うんです」

また、ビジネスとしても新しい展開を考えているという。

「これまでは、ひとつのシェアハウスを複数運営するというのはやっていませんでしたが、LOCALIFEは多棟運営も視野に入れています。すでに形はできあがっているので、あとは投資家の方と物件があればできるんです。ゆくゆくは、僕は企画とコーディネートだけやって、運営は別の方にやってもらうというフランチャイズ化もいいかもしれませんね」

LOCALIFEは現在新宿に1棟あるが、この1月からは川崎市の溝の口にもオープンした。今後、LOCALIFEが増えていく可能性は多分にある。

小原さんの心の真ん中には、大学生のときに体験した町家コミュニティと、LOCALIFEとが一本の道でつながっている。あのときの体験、感動、仲間。それをもっとみんなに知ってほしい。

結局、自分の思い描く場所は自分でつくってしまうのが一番いいのかもしれない。小原さんの生き方を見ているとそんな風に感じた。

ホームページ
colish

世界の旅行者がホームステイするシェアハウス「LOCALIFE」
LOCALIFE

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小原憲太郎

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