カフェ経営の原点。渋谷「factory」西原典夫氏が創る“ゆるやか”空間とは?

公開日:2020年04月08日

カフェ「factory」オーナー 西原典夫さん

渋谷と青山の中間地点、渋谷2丁目にあるカフェ「factory」。思い思いに時間を過ごす人たちが集う、自由な雰囲気のカフェだ。

電源やWi-Fiを完備し、ソフトドリンクのほか約100種類のビールを用意。自家製バターチキンカレーや、お肉屋さんの餃子などのフードメニューがラインアップされているほか、食べ物は持ち込みOKというユニークな特長を持つ。

目次

一流施設で“もてなす”経営を体感

一番大切にしているのは「リピート率」

お客さんと一緒につくるカフェ

お客さんにも、自分にも居心地の良い空間をつくる

進化し続けるカフェ「factory」

幅広い方々が訪れるカフェ「factory」

カフェfactory

一流施設で“もてなす”経営を体感

きっかけは、大学時代のアルバイト

factoryは、2011年11月にオープン。オーナー兼店主である西原典夫さんは、大学時代から飲食店でのアルバイトを始め、外食産業に興味を持ったという。

「大学3年生のときに、ブルーノート東京でアルバイトを始めました。その仕事がおもしろくて、ひとまず大学を休学して仕事に打ち込み、決心がついたところで中退してそのまま就職。

世界の一流ミュージシャンが集まる場所だったので、お酒、食事はもちろん、“もてなす”というサービスにも力が入っていましたね。

体験や空間を提供するということをとても大事にしていた、という印象でした。その経験から、飲食というのはサービスのひとつなんだと捉えるようになったところがあります。」

独立への想いを抱きつつ、他業種も経験

当時から、飲食店の経営をしたいと思っていたそうだが、すぐには独立せずに文房具の輸入代理店やIT系の会社に就職。幅広い業種を経験したあと、再度飲食業に戻り、カフェの立ち上げなどを経験。そしてfactoryを開店した。

一番大切にしているのは「リピート率」

カフェ「factory」西原典夫さん

「回転率」、「客単価」よりも重要なこと

西原さんは、飲食店に勤務していたころは主に接客やホールスタッフの教育を担当。料理人ではなかった。そのため、factoryを開店する際には食事で集客をするという考えはなかった。それよりも、居心地のいい空間をつくることに注力する。一番大事にしているのは「リピート率」だ。

「飲食店の売り上げは、回転率と客単価という2本柱が重要だといわれますが、僕はリピート率を一番大事に考えています。滞在時間が長いということは、居心地がいいということ。居心地の良さは、お客さんのリピート率に繋がっていると考えています。」

店内で寝ていても起こさない!? 居心地を追求する空間づくり

factoryでは、基本的には何時間いてもOK。実際に、開店から閉店間際まで過ごした人もいるそうだ。電源もありWi-Fiも使え、お客さんは思い思いのときを過ごしている。時には寝ている人もいるが、西原さんは起こしたりはしないという。「なるべくゆっくりしてもらいたい」と考えているのだ。

「料理で勝負するタイプではないと思っていましたので、心地よい空間を提供するということは開店当初から考えていました。家具選びとか、過剰接客はしないようにするというところに気をつけています。」

接客をするカフェ「factory」西原典夫さん

事業の拡大よりも大切なこと

通常、経営者というものは売り上げを増やしたり、複数店舗の経営をするといったように、事業の拡大を目指したりするものだが、西原さんにはそういう気持ちはあまりないようだ。

「factoryは、カフェという場所であると同時に、自分が一日の大部分を過ごす場所でもあります。お客さんよりも長くいるので、迎える側も居心地がいい場所でないと長続きはしません。無理をしない、がんばり過ぎないということには普段から気をつけています。」

お客さんと一緒につくるカフェ

カウンター業務をするカフェ「factory」西原典夫さん

ワンオペでも問題なし!のスマート業務を実現

factoryは、西原さんが一人で切り盛りしている。カフェを一人で営業するのはとてもたいへんというイメージがあるが、本人は意外と楽しんでいるようだ。

一人でも経営をしていけるポイントのひとつが、会計周りのスマート化だ。POSレジに「ユビレジ」、クレジットカード決済には「Coiney」、会計システムには「freee」を導入することで、日々の売上集計から経理処理までをスムーズにしている。

新メニューは、お客さんと一緒に試食

もうひとつが、お客さんと一緒にお店をつくっていくという点。お店のハードを用意するのは経営者、お店のソフト面をつくっていくのはお客さんという考え方だ。

「僕の中で、お客さんは“お店を一緒につくっているひと”という捉え方をしています。お客さんにいろいろ提案をしていただくことも多いですし、メニューの試食もお願いします。先ほどのユビレジやCoiney、freeeなどもお客さんが紹介してくれたものですし。factoryの自由な雰囲気も、お客さんが一緒につくってくれているものだと思っています。」

お客さんから勧められた食材や料理を試して、メニューに加えることもあるという。基本的に一人で経営をしている西原さんにとっては、お客さんはよき相談相手でもあるのだ。お店の常連さんからは、「のりおさん」と下の名前で呼ばれ、親しまれている。

店内での調理もOK!? どこまでも自由なカフェ

一人で経営していける最後のポイントが、料理。factoryでは食事メニューはあまり多くないが、そこは食事の持ち込みをOKにすることでカバーしている(ワンドリンク制。 食事持ち込み料:2016/1/28より、500円→無料に!)。調理器具の貸出もしているので、食材を持ち込んで鍋などを行うこともできる(要予約)。七輪やたこ焼き器を持ち込む方もいるというのは、驚きだ。

自家製メニューも既成品もあり。共通点は確かな味

「食事のメニューは、季節ごとに変わるということはありません。自家製のバターチキンカレーは、自分で言うのもなんですが本当においしいです。あとは、お肉屋さんから購入している餃子が絶品。約100種類あるビールのセレクションにも自信があります。お店としては、自家製バターチキンカレーと選びぬかれた既成品が売りですかね(笑)」

料理が得意でなければ、無理にやらない。その代わり、自信を持っておすすめできるものを選んで提供する。そのスタンスが、一人でもカフェを経営していける理由の一つのようだ。

余談ではあるが、今おすすめのビールは「Far Yeast Brewing Company」のものだという。

お客さんにも、自分にも居心地の良い空間をつくる

座って話をするカフェ「factory」西原典夫さん

長期経営の秘訣は、売り上げだけを見ないこと

カフェには、大別すると2種類ある。売り上げを追求していくタイプと、経営者がやりたいことを具現化するタイプ。factoryは後者のタイプといっていいだろう。

これから、カフェを経営したいという人に何かアドバイスはあるだろうか。西原さんに尋ねてみた。

「カフェを自分の好きな空間にするということ。長く続けるためにはそれが大事だと思うんです。売り上げだけを見てあれこれやるよりは、そういうことを気にせず、お客さんも経営者も居心地のいい空間を提供する。そうすれば、お客さんは来てくれると思います。」

ここにしかない独特な時間の流れ方がある

「もうひとつが、リピーターを大切にするということ。factoryに来ているお客さんは、職場でも家でもないこの場所の独特な時間の流れ方が好きという方が多いと思うんです。そういうお客さんを大事にしています」

営業時間内には絶えずお客さんがいて、思い思いに過ごしている。西原さんは、そういうお客さん一人ひとりの空間を邪魔しないようにしているという。

自分のカフェだが、自分が提供するサービスはお店の雰囲気の一要素でしかない。だから、その雰囲気を壊さないように接客を行う。自分のお店だから自分がメインという考え方は、西原さんにはない。あくまでも、お客さんが主体のカフェなのだ。

そういう考え方こそが、カフェを長く経営する上で重要なポイントなのではないだろうか。

進化し続けるカフェ「factory」

カフェ「factory」店舗外観

カフェにとどまらず、情報発信の場としても展開中

もうすぐ5年目に突入するカフェfactory。西原さんにとっても、お客さんにとっても居心地のいいカフェとして、多くのお客さんに愛されている。

西原さんとしては、factoryに関しては末永く続けていきたいと思っているそうだが、そのほかに今後の展望などはあるのだろうか?

「オーベルジュみたいな、宿泊施設付きの飲食店をやるというのが夢としてあります。ただ、自分がfactoryで過ごすのが好きなので、自分がここから離れるというのはあまり考えられない。どこかの飲食店やカフェなどをプロデュースするという話があって、それがおもしろそうだったらやってみる、というのが現実的ですかね。あとは、おもしろいイベントのためにこの空間を提供するというのは、どんどんやっていきたいなと思っています。」

これまでにも、トークイベントや勉強会、パーティーやギャラリー会場として利用されることもあったという。今後はもっといろいろなイベントでも使ってもらい、情報発信の場としての機能も広げていきたい考えだ。

笑顔のカフェ「factory」西原典夫さん

「そのほか、グッズ販売などもやってみようかなと思っています。今、デザイナーとTシャツのデザインを進めています。アパレルだけではなく、テーブルウェアや文房具など、そういうものをつくって発信していくのもひとつの方向性だと思います。」

また来たくなる、カフェの原点

カフェ経営というと、手の込んだ季節の料理にデザート、そしてきめ細やかなサービスといった印象があるが、factoryの場合は少し違う。お客さん一人ひとりを大切にし、必要以上の過剰なサービスをしない。お客さんの居心地のよさを最優先することで、また来たくなる空間をつくっている。

ゆるやかな時間が流れ、自由に過ごせる。もしかしたら、カフェの原点というのはfactoryのような場所のことなのかもしれない。

幅広い方々が訪れるカフェ「factory」

「IT業界の方々の利用が多い」というイメージがあったのだが、実際には、近くに通う学生さんからビジネスパーソン、ご年配の方まで、幅広い方々が来店されているようだ。 誰でも気軽に立ち寄れる空間を実現しています。

今回は、カフェ「factory」を訪れるIT業界の有名人たちをご紹介します。

モリジュンヤ氏

THE BRIDGE編集記者、マチノコト共同編集など

https://twitter.com/junyamori

大川竜弥氏

日本一インターネットで顔写真が使われているモデル

https://twitter.com/ryumagazine

飯高悠太氏

Webマーケティングポータル「ferret」編集長

https://twitter.com/yutaiitaka

カズワタベ氏

ウミーべ株式会社代表取締役CEO

https://twitter.com/kazzwatabe

朽木 誠一郎氏

編集者、ライター、メディアコンサルタント。「LIGブログ」前編集長

https://twitter.com/amanojerk

カフェfactory

ウェブサイト : http://factory.cr/

Twitter : https://twitter.com/factory1124

Facebookページ : https://www.facebook.com/factory2

執筆・撮影

三浦一紀

編集

フランチャイズ比較ネット編集部


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