1日1メニューの定食屋「未来食堂」 チェーン店からの学びとは?

公開日:2018年04月19日

ビジネスマンで賑わう神田神保町。駅から徒歩3分にあるビルの地下1階に、「未来食堂」がある。オープンは2015年10月。カウンターで12席ほどのこじんまりしたお店だ。

未来食堂は、店主の小林せかいさんが一人で切り盛りする定食屋。定食メニューは1日1種類(900円。2回目以降の来店は100円割引)。また、夜の時間帯は材料2品と味付けを指定して、お好みのお惣菜を作ってもらえる「あつらえ」(400円)というシステムもある。

オープン後、テレビ、ラジオ、雑誌、新聞、Webメディアなどに取り上げられ、今では遠方から訪れる人も多いという。

各メディアが取材に訪れるのは、1日1種類のメニューや「あつらえ」というシステムが珍しいからではない。店主の小林さんの経歴や、店の運営システム、そして考え方などが他の飲食店とは大きく違うからだ。

いったい、どんな定食屋なのだろうか。

目次

偏食から生まれたおかずオーダーメイド「あつらえ」

「まかない」「ただめし」は現代の“駆け込み寺”

サイゼリアで学んだ店舗運営の基礎

利益は単なる結果にすぎない

偏食から生まれたおかずオーダーメイド「あつらえ」

未来食堂_小林せかい

小林さんは、東京工業大学の数学科卒。その後日本IBM、クックパッドでエンジニアとして合計6年勤務した後、1年半の間に6件ほどの飲食店でアルバイトを経験し、この未来食堂をオープンした。

「自分はいつか、お店をやるんだろうなという漠然とした思いはありました。学生の頃からバーや喫茶店でアルバイトをしたり、大学の頃は学園祭で一人でお店を出していました。これが好評で、大学4年生の時には4つの大学で出店しました」

しかし、すぐに飲食業界へ入ったわけではない。大学時代にアルバイトをしていたバーのマスターに「外の世界を見てからのほうがいいんじゃないか」とアドバイスをされ、就職を決める。

そして、最終的に定食屋という形態での独立を志す。これは自身の偏食の経験がそうさせたという。大学1年生の時は、1年間ざるそばとシリアルで過ごし、就職後の新卒研修の2ヶ月間、お昼ご飯は毎日ヨーグルトしか食べていなかったそうだ。

自分だからこそできる飲食店

「『万人にとって美味しい』ではなく『その人にとって美味しい』を提供できるお店はどうだろうと思いつきました。偏食の自分だからこそ、できる飲食店があるのではないかと。ここが未来食堂の原点になっています」

「あつらえ」は、偏食の人でも気兼ねなく料理を食べてほしいという思いが込められている。いわば、おかずのオーダーメイドシステム。自分の好きな食材を好きな味付けで調理してもらえるというのは、ちょっと特別な気分にもなれるだろう。

「まかない」「ただめし」は現代の“駆け込み寺”

未来食堂_ただめし

未来食堂は、基本的に小林さん一人が切り盛りしている。しかし、誰もがお店を手伝える「まかない」というシステムを導入している。

「まかない」は、50分お店を手伝うと1食無料になるというシステムだ。一見、人件費を低く抑えるためのアイデアのようだが、根底の部分の想いは違う。

「まかないは、お金以外の関係性でお客さんと関係を保ち続けるためのシステムでもあります。普通の飲食店であれば、お金を払って料理を食べるという関係になってしまいます。そこに納得がいかなくて。一度来てくれたお客さんには、“お金はいらないからまた来てください”と思っていても、そういうわけにはいきません。そこで、どうすればいいのか考えた結果、お金ではなく時間をいただくという形にしようと、まかないのシステムを思いつきました。お金を払うという形以外で、未来食堂との関係性を望んでいる人に、時間という選択肢を作りたかったんです」

イメージとしては「駆け込み寺」のようなもの。小林さんはそう話す。お金がない、でもご飯が食べたい。そんなときに、いつでも来てもらえるように。そんなお店にするためのシステムでもある。

想いとビジネスの両立

また、「ただめし」というシステムもある。まかないで得た1食無料の権利を、誰かに譲渡することができるのだ。これにより、未来食堂に来てみたいけれど、お金がなくていけないという人でも、食事をしにくることが可能となる。

これらのシステムは、小林さんのボランティア精神で成立しているように思える。しかし、よく考えてみると、未来食堂としてはまったく損をしていない。

「まかない」はお金の代わりに労働力を払ってもらっているし、「ただめし」は誰かが「まかない」で得た1食無料の権利を譲渡しているだけ。

ビジネスとして成立させながらも、誰かの駆け込み寺として機能させる。小林さんの高いビジネスセンスが伺えるシステムといえる。

サイゼリアで学んだ店舗運営の基礎

未来食堂_店内_仕込み

小林さんは、クックパッドを退社後、飲食店を開くための修行として、1年半の間にチェーン店のファミリーレストランやケータリングサービスなど6件の飲食店でアルバイトを経験。これがものすごく役に立ったという。

「特に、サイゼリアでの経験は役に立っています。サイゼリアはとても値段が安い。でも、社員の方はものすごくプライドを持って働いていました。安いからこれくらいでいいだろうという考え方はなく、誇りを持って仕事をされていて。299円のミラノ風ドリアにきちんと向き合って、まったく妥協をしていないんです」

渡されたマニュアルに感動

また、システム面でもたいへん参考になったそうだ。

「サイゼリアでは、アルバイトの採用が決まるとガイダンスブックを渡されて、これ読んできてね、という感じなんです。そして、アルバイト初日でレジ打ちまでやります。それがとてもスムーズで、マニュアルさえあれば未経験でもここまでできるんだなと感動したんです。そこで未来食堂でも、まかないを希望する方には事前にガイドを読んでもらうようにしています。ガイドを読んで、やる気さえあれば誰でもできる。そういう風にしています」

素人考えでは、個人経営のお店を開く場合、そのようなチェーン店を参考にするというのはあまりないように感じる。しかし、小林さんは積極的に取り入れている。お店を運営する上で役に立つことは、チェーン店に学ぶことが多いという。

「お店をやる上で、基礎となる部分は先人に学ぶことは多いと思います。チェーン店は、味ひとつとっても、職人の人にとっては物足りないとか子供だましとおもわれるかもしれませんが、万人の舌にあう、最大公約数的なものだと思います。そういうものを学ぶことも無駄ではないはずです」

未来食堂_小林せかい

開業後もチェーン店からの学びは継続

小林さんは、お客さんからメニューのリクエストがあった場合、チェーン店に出向いてメニューの研究をする。そのメニューの基本となる具材や調理方法を知るためだ。それを知った上で、自分なりにアレンジを加えていくという。

「個人の場合は、周囲に止めてくれる人がいない。お客さんも料理に何か意見をくれるわけじゃない。そのためにも、基準点となるものは知っておきたいと思っています」

その他、掃除の仕方などもたいへん参考になったという。そして、効率化できるところは取り入れ、自分なりにアレンジを加えるべきところは加えていく。そうすることで、一人でもスムーズに未来食堂を運営できるシステムを構築しているのだ。

未来食堂店内_本

自由に過ごしてもらいたい

店内には、さまざまな本が置いてある。この本は小林さんの蔵書を半月ごとに入れ替えている。ランチタイムの後、手が空いている時間、小林さんは本を読んで過ごすことが多いという。

「過剰な接客をするよりも、お客さんに自由に過ごしてもらいたいという感じなので、自分もなるべく気ままに過ごすようにしています」

おいしい定食に、居心地のいい空間。未来食堂の本質は、ここにある。

未来食堂_本

利益は単なる結果にすぎない

未来食堂では、月曜日の仕込みも無料で見学することができる。どこまでもオープンなお店だ。

「遠方から、店舗づくりの参考にしたいということでやってきてくださる方もいます。こちらからお金を払うわけでもありませんし、いくらでもどうぞというスタンスです。お互いに学び合えることもあるし。ゴミ捨てくらいはやっていただきますが(笑)」

また、事業計画書や月次決算をホームページ上で公開しているのも特徴的。未来食堂そのものをオープンソース化しているのだ。つまり、誰もが未来食堂のシステムを参考にして、店舗運営ができるということになる。

このように、従来の飲食店とは異なるシステムを採用することで、各メディアにも取り上げられ注目され、順調に売上も伸ばしている。しかし、小林さんは楽観視していない。

軸は「おいしい定食を作り続けること」

「お客様は満足すればまだ来てくださります。利益というのは単なる結果にすぎません。今日の定食、明日の定食をおいしく作り続けた結果です。システムとして目を引くことよりも飲食店の本分を全うする事。そこがぶれることはあり得ません。メディアに取り上げられて売上が伸びたら、いかに取り上げてもらえるかと考えてしまう。それは本質ではなく、興味もありません」

開店半年で、小林さんの予想を上回る反響の未来食堂。売上も順調で、多い時にはランチタイムで5回転するほどだという。

「収益の面ではものすごく伸びています。想像以上の評価をいただけていると思います。それは、珍しいから目立っているというのはもちろんあると思うのですが、何度もお店に足を運んでくれるお客さんも多くいて、とてもうれしいことだと思います」

引き継がれる「未来食堂」マインド

これからの未来食堂を、小林さんはどう考えているのだろう。

「あまり考えてないんですよね。未来食堂の2号店を出すことはあまり考えていません。飲食店で儲けようという、そのベクトル上に成功があるとは思っていなくて」

しかし、確実に未来食堂の種は全国に広がっている。飲食店を開くための修行として「まかない」にやってくる人が、自分のお店をオープンし始めているのだ。来年の今頃には、未来食堂のマインドを引き継いだお店がいろいろなところにできていることだろう。

未来食堂_定食

実際に定食を食べてみると、純粋に味がおいしいのはもちろん、お腹だけではなく心も満たされる満足感があった。
システムばかりが注目されるが、毎日違う定食が食べられ身も心も充実する、まるで実家のような定食屋だ。

想いを形にしながら、ビジネスとしても成功している「未来食堂」。理想の独立・開業スタイルの一つを垣間見ることができた。

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《未来食堂》のホームページはこちら
11〜22時(日月祝休,火は15時迄)神保町駅 徒歩3分

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