脱サラして農業を始めるには?始め方と始めてよかった・大変だった体験談を紹介

最終更新日:2023年02月22日

しっかりとした事業計画を立てて農業経営を始めれば、脱サラして農業一本で暮らしていくことは可能です。しかし、会社勤めを辞めていきなり農家になっていいのか不安な人は多いのではないでしょうか。最近では新型コロナウイルス感染症の拡大を機に地方へ移住し、テレワークに取り組みながら農業経営を目指す人も出始めています。

この記事では脱サラして農業を始める方法・注意点や脱サラ農家の体験談を紹介します。新規就農を支援する制度も紹介するので、事業計画を立てる際は参考にしてみてください。

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目次

みんなが脱サラして農業を始めた理由

脱サラ農家がうまくいった体験談

脱サラ農家の大変だった体験談

脱サラで農業を始める方法4選

脱サラするのに知っておきたい制度

脱サラして農業を始める際の注意点

脱サラ農業で売上を上げるコツ

制度を活用して脱サラと農業のスタートを切ろう

みんなが脱サラして農業を始めた理由

脱サラして農業を始めた理由

自然あふれる環境で暮らしたい、自分自身の手で育てた野菜や果物を地域に届けたいなど、農業を始めるきっかけはさまざまです。
ここでは脱サラして農業を始めた人の決め手となったきっかけを3つ紹介します。

自然のある田舎で暮らしたい

自然環境が豊かな地域で暮らしたいと考えて脱サラして、山や川・海が身近にある田舎で農業経営を始める人もいます。
都会と比べると土地の価格が安く、マイホームの購入とセットで移住・農業経営を検討する人も見られます。
地域の人とのつながりが強いので、新しい人との出会いを通じて農業経営のヒントを得やすいのがメリットといえます。
公共交通機関の本数は少ないものの、車を運転できれば近隣都市への移動もスムーズでしょう。

ストレスから解放されたい

通勤や交通渋滞・人混みのストレスから解放されたいと考えて、地方で農業を始める人も増えています。ワーケーションで田舎暮らしに魅力を感じ、農業を営むために脱サラを決意する人もみられます。ソーシャルディスタンスを保ちやすく、新型コロナウイルス感染症のリスクを低減したい人にとっても魅力です。

最近では、農作業を通じてストレスを緩和する「アグリヒーリング」という考え方も登場しています。ストレス解消に関する実証実験も進んでおり、将来的には第6次産業として農業体験を提供する「農泊」などのビジネスチャンスにも活かせる可能性を秘めています。

新鮮な野菜・果物を食べたい

農業経営を始めた人のなかには、家庭菜園や市民農園で作物を育てるなかで農業に魅力を感じたという人もいます。
自分の手で育てた新鮮な野菜・果物を食べたいという思いや、地域で販売して収益化につなげたいという考えも、脱サラして農業を始める理由の一つです。

近年では食の安全性に関する意識が高まっており、有機野菜・無農薬野菜のニーズも増加傾向です。地域の直売所では野菜・果物の生産者を表示できる場合があり、栽培方法を工夫すれば販路の拡大につなげられる可能性もあります。

新規就農者は約5.4万人で堅調な推移

農林水産省「令和2年新規就農者調査結果」によると新規就農者は53,740人で、前年と比べると若干減少しているものの、過去10年の推移をみると横ばい傾向を示しています。
49歳以下の新規就農者は18,380人、なかでも異業種から農業経営に参入した新規自営農業就農者は8,440人でした。

また、自分自身で土地や資金を用意して農業を始めた人(新規参入者)は2,580人となり、親から農業経営を引き継いだ人を入れると毎年1万人前後が脱サラして農業経営に参入していることがうかがえます。
ちなみに、農家や農業法人に就職して農業に従事する人は約1万人(うち49歳以下は7,360人)でした。

脱サラして農業を始める年齢層

次に、新規自営農業就農者と新規参入者の人数を年代別に確認してみましょう。

(単位:人)

年代 新規自営農業就農者 新規参入者
20~29歳 2,190 480
30~39歳 2,740 1,070
40~49歳 3,230 1,020
50~59歳 5,620 460
60~64歳 8,050 200
65~69歳 17,990 340

定年や早期退職を機に農業経営に参入した人が目立つ一方で、30代・40代で脱サラして農業経営に参入した人も約8,000名にのぼります。
近年では自治体の移住制度も拡充しており、子育てや住宅購入をきっかけに地方へ移住して農業を始める事例も出始めています。

脱サラ農家がうまくいった体験談

脱サラ農家がうまくいった体験談

農業経営をきっかけに、家庭での時間が増えたり自然の恵みを実感できたりした人は案外多いものです。
「脱サラして農業を始めてよかった!」と農業経営の努力が実った体験談を紹介します。

1.ストレスから解放され家族との時間が増えた体験談

以前は東京都内の製造メーカーで営業職として勤めていましたが、子どもの小学校入学を機に長野県へ移住しました。
移住相談会を通じて就農体験に参加し、里親農家から農業について指導を受けるうちに、田舎暮らしと農業経営の魅力を実感できたため脱サラを決断しました。
会社では顧客対応などでストレスを抱えがちでしたが、地域の人とふれあうなかで徐々にストレスが和らぎ、収穫期などの共同作業も楽しみになっています。家族で過ごす時間も増え、子どもの成長にとってもメリットが多いと実感しています。

2.自然の恩恵を得られた体験談

大学の農学部を卒業後は北海道のじゃがいも農家で働いていました。事情があって大阪に本社がある教育関係の企業に転職しましたが農業の魅力を捨てきれず、会社を辞めて再び北海道に移住して野菜栽培を始めました。
農業を営むなかで収穫の喜びを感じられるのはもちろん、四季の変化がはっきりしてるため春の訪れも楽しみに感じています。車で少し走れば海にも出られるので、自然を満喫しながら暮らせるのも魅力です。
空港や大きな街とも高速道路でつながっており、暮らしにもさほど不便を感じません。

脱サラ農家の大変だった体験談

農業経営をスムーズに進める上で地域とのつながりは欠かせませんが、移住当初は人間関係づくりが大変だと苦労した人も多いです。脱サラ農家が大変だと感じた体験談も紹介します。

1.農地確保や人脈づくりが大変だった体験談

脱サラして農業に取り組もうと農地を探しましたが、訪れる先々で「サラリーマンが農業なんて、無理」と言われて相手にされませんでした。移住前に少しでも人間関係を作ろうと思って農泊に出かけても、深い関係性を築くまでには至りませんでした。自治体の就農支援窓口に相談してようやく農地確保のめどがつき、農業関係者との会合にも参加できるようになりました。農業で独立できたのは、脱サラを決意してから6年目でした。最初から移住したい町の役所や農業関係者と関わりを持っていれば、もう少し早く独立できたのではと思っています。

2.農家ならではの人付き合いが大変だった体験談

5年前に地方に移住して農業経営を始めました。地域の人は温かく迎え入れてくれたのですが、寄り合いや地域行事が頻繁にあり、その度に家族の誰かが必ず参加しなければなりませんでした。都合で参加できなければ事情を詳しく詮索され、都会暮らしが長かった身にはギャップに感じました。

しかし、農作業で忙しい時期をはじめ団結力は強く、農家が交代で子どもの面倒を見てくれるのには助かっています。長く住んでいる人から人付き合いのアドバイスももらえて、今では地域の団体に頼りにされるようになりました。人付き合いが得意でなくても、勇気を持って飛び込めば人付き合いの問題も解決すると実感できました。

脱サラで農業を始める方法4選

脱サラで農業を始める方法

育てる作物選びや農業技術の習得が、農業経営で収益を上げて脱サラを成功させるための決め手となります。農地や農機具の準備も必要となるため、十分な開業資金の確保も欠かせません。脱サラで農業を始めるまでの流れを紹介します。

①資金と事業計画を立てる

脱サラして農業を始める前に、十分な資金を確保した上で事業計画を立てることが重要です。農業はほかのビジネスと異なり、独立開業したとしても作物が収穫できるまでは収益が発生しません。

作物を育てている間も、農地の賃料や農機具などの設備投資の費用、生活費もかかります。
ちなみに、平成28年度新規就農者の就農実態調査(全国新規就農相談センター)によると、新規参入時点で設備投資や種・苗・肥料など農業自体にかかった費用は平均569万円でした。
作物づくりの準備期間も考えると、最低でも1年~1年6ヵ月分の生活費と合わせて1,000万円前後の資金が必要となります。

農地の広さや栽培する作物の種類によっても、得られる収益は変化します。地域によっても栽培に適した作物や天候・土の質などの環境が異なるため、農業を始める場所を選ぶ前に現地を訪問するなど、農業の実態を念入りに調査することが大切です。収益の通年化を目指すなら、将来的に観光農園など第6次産業に参入するプランを練っておくのも良いでしょう。

農業をフランチャイズで始める場合の資金は下記記事でも解説しています。

>>農業フランチャイズの開業・運営に必要な資金とは

②農地を確保する

農業を始めたい場所や育てたい作物が決まったら、農地を確保します。確保した土地が農地として認められるには、農地法などで定められた条件を満たす必要があるほか、立地条件に応じた手続きも必要となります。
そのため農地を探す際は、農業を始める地域の農業委員会や農地中間管理機構として指定された団体に相談するのが一般的です。

各地で農家の高齢化に伴う後継者不足が課題となっているため、農業に取り組む強い気持ちがあれば、農地確保に向けて協力を得られるでしょう。ただし、空き地を購入・賃貸して農業を営もうとしても、農地としての条件を満たさないと違法となるのでご注意ください。

③農機具を揃える

作物を植える前に、栽培に必要な資材や農機具を買い揃える必要があります。トラクターなどの農業用機械は1台数百万円と高価なため、農業を始める時点ではレンタルや中古の機械を購入する場合もあります。地域によっては農機具を共同利用(シェアリングサービス)できるため、初期費用を節約したい人には選択肢になるでしょう。

肥料やビニールハウスなどの資材は、ホームセンターや農業資材販売店で購入可能です。一部の農業資材販売店では収穫期に合わせて支払えるクレジットカードも提供されているので、収穫まで手元に現金を残しておきたいと考える人にはおすすめです。

④技術を習得し農業開始

脱サラ後すぐに作物の栽培を始められるよう、作物を育てる技術や畑の管理方法を習得しておく必要があります。シェア畑など、農業に関する技術サポートを受けられるサービスを活用しながら独立準備を進めるのも一つの方法です。

また、全国各地に設置されている農業担い手育成センターでは、栽培技術をはじめ畑の管理方法や農業経営に関する知識などさまざまな研修を実施しています。農業を始めた後の人脈形成にもつながるので、受講を検討してみてください。

脱サラするのに知っておきたい制度

脱サラするのに知っておきたい制度

農林水産省では、一定の条件を満たす49歳以下の新規就農者に対して「農業次世代人材投資資金」という制度を用意しています。農業経営を始めた後3年間は年間150万円、4年目・5年目は年間120万円が交付され、農業経営の安定に効果を発揮するのが特徴です。農業次世代人材投資資金は2021年度末で終了するため、手続きの際はご注意ください。

令和4年度からは新規就農者育成総合対策として、新規就農者に最大1,000万円を支援する制度や農業研修を受講する人に最大13万円を2年にわたり支援する制度がスタートします。先輩農家による技術指導などのサポートも予定されているため、脱サラして農業を始める人にとっては心強い制度となるでしょう。

さらに日本政策金融公庫では、市町村から青年等就農計画の認定を受けた人を対象に、「青年等就農資金」という融資制度も用意しています。新規就農者を対象にした助成金制度を設ける自治体もあるため、農業を始めたいと考える地区の自治体への相談をおすすめします。

>>農業次世代人材投資資金
>>青年等就農資金

脱サラして農業を始める際の注意点

脱サラすると自分の思い通りに事業を進められる反面、収入が不安定になるリスクも生じます。事業を始める際の設備投資の費用や、当面の生活費の確保も必要です。そのため、数年前から事業計画を立て、独立資金を準備しておくことが脱サラの前提条件です。

経営を安定させるために、市場ニーズの把握・販売ルートの確立など利益を得るためのあらゆる行動が求められます。経営者として事業に関する全責任があるという意識も必要です。事業の運営がストップしないよう、経営者自身の体調管理も求められるでしょう。

なお、脱サラして農業を始める場合は、ほかの事業と比べて収入減少のリスクが高くなりがちです。異常気象などによる不作で生じた収入減をカバーするために、農業を始める段階で農業保険(収入保険・農業共済)への加入をおすすめします。

>>農業保険(収入保険・農業共済)

メリットとデメリットをきちんと把握する

脱サラして農業を開始するにはメリットもデメリットも存在します。
このメリットとデメリットをきちんと理解して始めることが重要です。
先程紹介した「農業を始めてよかった・大変だった体験談」を確認し、脱サラ農業のメリットとデメリットを把握しておきましょう。

副業で農業をする選択肢もある

脱サラに不安がある人や、農業で完全に独立するのが不安な人は副業で農業を始めるのも選択肢の一つです。移住先で農業に携わりながら本業のテレワークにも取り組む「半農半X」というライフスタイルも注目されており、農業を軸としたパラレルワークを支援する自治体も登場しています。何らかの事情で移住に踏み切れない場合は、近隣の農園を借りて野菜・果物を栽培する方法もあります。

副業から農業を始める詳しい方法は、この記事を参考にしてください。

参考記事:農業の副業は割に合わない?稼ぎやすい作物やコツを紹介

脱サラ農業で売上を上げるコツ

それでは脱サラして農業を始めたとして、経営を上手くいかせるコツはあるのでしょうか。
ここでは脱サラして農業をする方に向けて、上手に売上をあげるコツを紹介します。

値段が高い野菜を知ろう

安価でユーザーが購入しやすい野菜を作ると売れ行きが良さそうですが、農業では高くていい野菜を作る方が実は初心者向けです。
経営や集客に初心者の方ほど、希少価値がある野菜を作った方が良いのです。
農林水産省の「食品価格動向調査」を参考にすると、主要野菜のなかで比較的値段が高いものは

  • トマト 897円
  • ねぎ 814円
  • にんじん 508円

などがあります。
このように売り上げが大きい野菜から作っていくのは一つの施策となるでしょう。
また、主要野菜ではなくわさびや高麗人参など珍しさで高級となっている野菜を作るのもいい方法ですね。

競合と差別化をしよう

日本では農業で売り上げている農家はとてもたくさん存在しており、他の農家さんは全て競合となってしまいます。
「野菜なんてどこで買っても一緒でしょ」と思っている方に自分の農家を選んでもらうのは非常に難しいです。
ですので、競合と差別化となるコンセプトを考えておくのも大切です。

  • その地域でしか育てられない野菜を販売する
  • 無農薬や特別な工程を加えて育てる
  • 販売する野菜全てに顔写真をつける

など、周りの農業と差別化できるような付加価値をつけて集客をしてみましょう。

制度を活用して脱サラと農業のスタートを切ろう

脱サラして農業に取り組むには、農地探しや資金計画・移住先での人間関係づくりなど入念な準備が欠かせません。脱サラしようか迷っている人は、移住説明会への参加や農泊などで農業の実情を知るのも効果的です。

自分ひとりで農家として独立するのは大変ですが、移住・就農に関する各種サポート制度を用意する自治体もあります。日本政策金融公庫でも、新規に農業経営を始める人を対象にした融資制度を用意しています。さまざまな制度を活用しながら、自分に合ったスタイルで脱サラ・農業をスタートしてみてはいかがでしょうか。

公開日:2022年10月17日

よくある質問

Q 脱サラした後、農業経営をうまく進めるコツはあるのでしょうか? 回答を見る
Q 農業をスタートするための支援制度はありますか? 回答を見る