年収1,000万円超えの会社員が農業で脱サラ!いちご農家独立の“戦略”を語る

最終更新日:2023年05月27日

「農業で独立したいけど、安定した職を捨てるのは怖い」という方もいるかもしれません。

今回取材した太田 啓史さんは、年収1,000万円超えの一流サラリーマンという立場を捨て、地元福島県でいちご農家を始めた人物です。

未経験からいちご農家として脱サラし、“押し寄せる不安”に最も苦労したと語る太田さん。脱サラの流れや年商・開業資金、農業の魅力と辛さなど、詳しいお話を伺いました。

目次

東日本大地震がきっかけ…地域の若者たちに触発され地元で独立

農作物にいちごを選んだ“戦略的な理由”とは

1年目から年商2,000万円超え!開業資金の5,500万円は融資

一番の苦労は「不安」との付き合い方…農業に向いている性格

リスクはどの仕事にもつきもの。リスクヘッジを忘れないこと

人生を豊かにするために「脱サラしない」という決断も正解

東日本大地震がきっかけ…地域の若者たちに触発され地元で独立

外資系企業でサラリーマンとして働き、年収は1,000万円を超えていた太田さん。華やかな経歴を捨てて農業に挑戦した点に驚かされますが、それだけでなく、農業を始めるにあたりいちごに狙いを定めた理由も興味深いものでした。

まずは、独立前の経歴を教えてください。

太田さん「前職は、外資系製薬会社の営業職です。当時は仕事が本当に楽しくて、辞めたいと思ったことは一度もありませんでした。経済的に安定していましたし、もう一度会社員をするのであれば前の会社に入りたいくらいです」

そこまで好きだった会社を辞め、福島県の鏡石町でいちご農家を始めた理由が気になります。

太田さん「きっかけの一つは、東日本大震災です。ボランティアをしていたときに、被災された人たちを見て大きく考え方が変わりました。また、福島県で会社を経営している若者たちの姿を見て、そういう生き方もあるのかと。

この福島県鏡石町は私の地元でもありますし、尖った若者たちと出会うなかで「自分の育った場所を使って生きていく選択肢もあるのか」と考えるようになりました」

農作物にいちごを選んだ“戦略的な理由”とは

農作物にいちごを選んだ“戦略的な理由”とは

地元で事業を始めたいと考える人は珍しくありませんが、太田さんはなぜ、いちご農家を選んだのでしょうか。

太田さん「マンション経営なども選択肢としてありましたが、マンション経営では私の目指す“地元を未来に繋いで豊かにすること”は達成できないのではと考えたからです。

農業では、何百年も前からあった土、湧き出る水、大地を照らす太陽などを使い生産したものを、消費者へ提供しますよね。農家としての生き方は、私の目指す「地元を繋ぐ」に近いのではと考えました」

なるほど。そのなかでも、いちごを選んだ理由は何かあるのでしょうか。

太田さん「かなり小さな土地を使っているので、その土俵に立てる作物という基準でいちごが選択肢にあがりました。また、栽培のノウハウを習得するまでに何十年と長い時間が必要な作物は避けたいと考えていました。

いちごの場合、これらの条件を満たしているのに加えて、栽培方法がすでに確立されている点が魅力的。私には農業に関する経験や勘が全くありませんが、いちご栽培のノウハウはすでに解明されているので挑戦しやすいかなと」

確かに太田さんは農業未経験者。いちご栽培のノウハウは、どのように学んだのでしょうか。

太田さん「本を読んだり文献を調べたり、自分の情報収集のみで調べられるものはとにかく調べました。その後は実際にいちご農家へ訪れ、そこで勉強をさせてもらいました。期間は、会社員をしながら土日や有給を使って1年間、それからさらに会社を辞めてからの1年間です」

1年目から年商2,000万円超え!開業資金の5,500万円は融資

年商や年収についてお聞きしたいです。

太田さん「1シーズン目の売り上げが、2,000万円~2,500万円です。2シーズン目も同じくらいで、今のところ順調にいちごが生っています」

さまざまな作物のなかでも、いちごはお金がかかる作物だと聞きました。やはり、初期費用は高額だったのでしょうか。

太田さん「そうですね。いちごは基本的に、農業のなかではお金がかかるといわれています。このハウスを立てる際は、5,500万円くらいかかりました。融資のなかでも農業を始めるときに使える制度を活用して数千万円ほど借り、あとはサラリーマン時代の貯金も使っています」

いちごの種類によっても必要な資金は変わるんですよね。

太田さん「変わると思います。また、地域にもよります。たとえばこの辺は雪が降るので、雪にも耐えられるハウスを作らなければいけません。そのほかにも、適切な量の太陽光を取り入れられるビニールを使う必要があります。

ただ、私は自分のなかで「このクオリティのいちごを使って、このくらいの値段で喜んでもらいたい」というイメージがあったので、金額の大小はあまり気にしていません。赤字にならないかどうかが大切という感覚です」

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一番の苦労は「不安」との付き合い方…農業に向いている性格

面積の小さな畑で栽培できること、栽培方法がすでに確立されていることなど、戦略的にいちご農家を始めた太田さん。ですが、太田さんは今まで農業未経験者。未経験の農業で独立するにあたり、苦労もあったといいます。

一番苦労したことを教えてください。

太田さん「最初は、口にいれても大丈夫な実が生るのか不安でした。もともと50年も何もなかった地にハウスを建て、そこにゼロから種を植えているわけですから。本当に問題のない実が生るのだろうかと。

あとは、買いに来てくれる人がいなければ実が腐ってしまうので、収穫した分を全てさばけるのかという不安もありました。自分で理想図を描いているけど、その通りに事が運ぶのかという不安に最も苦労しましたね」

そのような苦労を乗り越え、農業を上手くいかせるコツはあると思いますか。

太田さん「年収でも何でも良いので、5年後や10年後にどうなっていたいのかビジョンを描くことが大切だと思います。絵や数字などで、細かくイメージすることがポイントです」

なるほど。太田さんとしては、農業に向いている性格などはあると思いますか。

太田さん「何を作るのかにもよると思います。ひとまとめに農家といっても、たくさんの野菜を作る農家もいれば、私のようにいちごだけ作る農家もいる。私の場合は、一つの作物に集中して品質を上げたいタイプなので、いちごだけを選びました。向き不向きについては、自分の性格と持っているものを照らし合わせて考えることが大切です」

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リスクはどの仕事にもつきもの。リスクヘッジを忘れないこと

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太田さんも不安だったかと思いますが、ご家族の反応はどうだったのでしょうか。

太田さん「最初の時点では、農業について知識がなさすぎて、賛成でも反対でもないという感じでした。ただ、妻は昔から私がやることに対して無下に反対するタイプではなかったので、覚悟を決めて本気でやりたいと話したときは賛成してくれました。「そこまであなたが言うんだったら、勝算があるでしょ?」と」

たとえば、上手くいかなかったときのリスクヘッジなども考えていたのでしょうか。

太田さん「はい。農業の融資には、1年目ですぐに返済を求められるものではなく、3年目くらいから返済していくものが多いです。そのため、1年目に事業が上手くいかなくても問題がないように、1年目から返済を求められるところからは借りませんでした。そのほかのリスクヘッジでいうと、生活費は絶対に残しておくことですね」

農業は不確定要素が多いですからね。

太田さん「そうですね。しかし、それは農業だけでなくどの仕事も同じではないでしょうか。コロナ禍で飲食店にお客さんが来なくなるなんてことも、その一例だと思います。農業は気候が関係するためリスクが高いと思われがちですが、リスクは農業に限った話ではないかと」

人生を豊かにするために「脱サラしない」という決断も正解

いちごの出来が悪かったときは、どのように対処していますか。

太田さん「上手くいかなかったときは、お客さんに出さないようにしています。ただ、農作物は味や雰囲気が日々変化するのが魅力だと思っているので、良い意味での味のバラツキや移り変わりは届けていきたいです」

太田さんはいちごだけでなく、販売方法にもこだわっていますよね。

太田さん「どこで誰と食べて、どのように受け取るかによっても農作物の魅力は大きく変わると思っています。気持ち良く買って気持ち良く食べてもらうためにも、お店の清潔さや快適さ、豊かさなども伝えていきたいです」

ありがとうございます。それでは最後に、脱サラをしようか悩んでいる方へ一言お願いします。

太田さん「脱サラした人のほうがすごいと思われがちですが、進むのも留まるのも勇気が必要です。本当に将来を見据えた人や、覚悟を持っている人の「脱サラしない」という決断は、「脱サラする」と同じぐらいのエネルギーと覚悟が必要。一度しかない自分の人生を豊かにするのはどちらかを考えると、結果が見えるのではないでしょうか」

取材中に太田さんは「最初に収穫したいちごのことを今でも覚えている」と話してくれました。いちごを食べた奥様が「危うさのようなものはあるけど、“いちご家族のいちごだ”って言ってるような力強い味がする」と話したときは本当にうれしくて、今思い返しても涙が出るような感覚になるそうです。

脱サラをするかどうかで悩んでいる方は、まずは「自分の人生を豊かにする選択肢は何なのか」という点について向き合ってみると良いかもしれません。

公開日:2022年12月19日

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