脱サラでパン屋を開業しても儲からない?廃棄や競合に打ち勝つには
最終更新日:2024年09月20日

「趣味のパン作りを仕事にしたい」「脱サラして自分のスキルで稼ぎたい」と思っていても、パン屋は肉体労働で経営も大変と聞いたことはありませんか?本記事では、なぜパン屋の開業が厳しいのか理由を解説し、パン屋開業を成功させるコツや開業手順などをご紹介します。脱サラしてパン屋を開業し成功させるために、パン業界の知見を深めて事前にしっかりと対策を練りましょう。
パン屋の開業が厳しいと言われる理由
始めに、パン屋の開業がなぜ厳しいと言われているのか具体的な理由を4つ取り上げて解説します。業界の状況を知ったうえで、本当に自分自身に開業ができそうか冷静に考えてみましょう。
機材・設備など開業資金が高額
パン屋の開業にはオーブンなどの機材・設備が必要となりますが、機材は比較的高額なものが多く、開業資金がかさんでしまいがちです。必要な機材・設備と金額を、以下で解説します。
- オーブン ~300万円前後
- 冷凍冷蔵庫 ~100万円前後
- 焙炉 ~100万円
- ガスコンロ 6万円前後
- ニーダー ~100万円前後
厨房の設備だけで400~800万円ほど発生し、家賃や仕入れ、備品、広告宣言費などのを含めると初期費用は2,000万円近くなります。カフェなどの飲食店に比べ開業資金が高額な点が、パン屋開業が難しいとされる理由の1つです。
パンの仕込みが重労働
パン屋は仕込みに時間がかかるため朝が早く、長時間労働となるのが厳しいと言われるポイントの2つ目です。パンは発酵時間が必要なので朝4~6時から仕込みを始める店が多いです。
開店してからもパンを焼きながら接客や陳列をし、パンの補充を行い、夕方には次の商品の仕込みの準備を進めます。夜19時~21時にお店を閉めた後は、厨房の清掃や消毒をして1日の仕事が終わります。大量に注文が入ったとき、午前3時など深夜から仕込みを始めたという経験者もいるため、長時間の立ち仕事に自信がない人には難しい仕事と言えるでしょう。
コンビニやスーパーなどの競合店が多い
パン屋の競合はパン屋だけではありません。スーパーやコンビニ各社が自社独自のパンを製造・販売し、イートインコーナーが設置されている店も増えています。またパン屋そのものの店舗数も多く、ライバルは業界の内外に存在します。
帝国データバンクの調査によると、2019年のパン製造小売業者の倒産件数は31件にのぼり、帝国データバンクが行ったなかで過去最多の結果となりました。家族経営が基盤のパン屋では、後継者不足問題やコンビニエンスストアの増加が倒産理由にあがっています。
安くて手軽に購入できるスーパー・コンビニに埋もれてしまわないよう、自店ならではのパンを作り、研究とし試行錯誤を繰り返す探求心を維持することがパン屋の開業には重要です。
完売できず廃棄や値引きで負のサイクル
パン屋にとって大きな課題となるのが売れ残りです。パンの原価は10%と耳にしたことがある人もいるかもしれませんが、必ずしも90%の利益を生み出すわけではありません。特に翌日に商品を持ち越しができない分、売れ残りは値引きを行い、それでも完売しなければ廃棄処分となります。
また、ラーメン・うどん屋のような飲食店と異なり、注文が入ってから調理をする仕組みではないため、売上予測が外れれば売れ残りが発生しがちです。「廃棄しないために値引きセールをする→値引き目当ての顧客が増えて日中は売れない」といった負のサイクルに陥ることもあるでしょう。
パン屋を開業するには売れ残りを出さないように客数の分析をし、利益を出すためにどのような工夫をすべきかなど、パン作り以外の視点も持ち合わせておく必要があります。
パン屋の開業が向いている人
厳しいパン業界であっても、パン屋に向いている人であれば苦労をものともせず、前向きに取り組んでいけるでしょう。本章では、どのような人がパン屋の開業に向いているか、詳しく解説していきます。
新商品開発のアイデアが豊富な人
新しいパンを生み出すために、どんどんアイデアを商品に落とし込める人はパン屋の開業に向いています。お客さんを飽きさせないために、何度も試作を繰り返して新商品を練り続けられる人や、アイデアがパッと浮かんですぐ実践できるタイプです。競合店が多いなか、いかにお客さんの心をつかめるか思考錯誤して、行動し続ける能力が重要と言えるでしょう。
体力のある人
先ほども触れましたがパン屋は朝早く重労働のため、ある程度の体力が必要です。毎朝早い時間に起き続けられるか、立ち仕事に耐える体力があるかなども、パン屋の開業には重要なポイントです。
脱サラのパン屋さんで成功するコツ
パン屋開業をするには開業資金が高額だったり、スーパー・コンビニなどのライバルが多かったり、成功につなげるにはポイントを押さえて計画的に開業することが重要です。脱サラのパン屋を成功させる具体的な方法を一緒に確認していきましょう。
初期費用をおさえる
パン屋開業を成功させる1つ目のコツは、初期費用のコストダウンです。冒頭で紹介した通り、パン屋の機材は高額なものが多いため初期費用をおさえる必要があるでしょう。また機材に加え、パンを焼くスペースと陳列スペースを確保するため、それなりの坪数が必要となり家賃も軽視できません。家賃は開業している限り継続的に発生する経費です。
開業コストや月々の家賃など大きくかかる部分を意識的におさえなければ、利益回収に時間がかかってしまいます。
もし利益回収のスピード感に不安があれば、居抜き物件探しやフランチャイズなどの活用を検討し、初期費用をおさえる努力をしましょう。
居抜き物件を探す
居抜き物件を利用するメリットは主に次の2点です。
①開業準備の期間が短くできる
②内装費をおさえられる(初期費用が少なくて済む)
居抜き物件はすでにお店の内装ができあがっているため、工事期間や内装費用の大幅削減が期待できます。改装費用と必要に応じ譲渡費用を支払うだけで済むためメリットが大きいでしょう。ただし、「すでに内装ができあがっている=1から内装のレイアウトができない」となるため、自身のお店の計画と照らし合わせて決めることが大切です。
機材・設備を中古で入手する
パン屋開業にあたり開業資金が高くなる大きな要因である機材・設備を、中古で入手すれば初期費用のコストダウンが期待できます。また、レンタルを活用する方法もあるので、全部を買いそろえるのではなく、資金状況に応じて収支計画を立てましょう。
フランチャイズを利用する
初期費用をおさえる方法として、フランチャイズも有効な手段の1つです。フランチャイズとはフランチャイズ本部と契約をして対価を支払い、本部の持つ経営ノウハウやサービス、商品を販売する権利をもらい経営するビジネスモデルを指します。
契約するフランチャイズ本部にもよりますが、フランチャイズを利用したときの一般的な初期費用400~500万円前後とされています。すでにブランドイメージが確立されており、開業のサポートを受けられるので、自分で1から始めるのが不安な人にはおすすめです。
パン屋+αの戦略を練る
パン屋は薄利多売で、利益率があまり高くないのが前提となります。そのため、以下に挙げるのような戦略を練ることもパン屋を成功させる重要なポイントです。
イートインスペースを併設してセット売りで稼ぐ、移動式パン屋で話題をつくる、パンを用いたレストランとして開業するなど、+αの戦略を検討する
コンビニでは買えない高級路線の食パンや創作パンで勝負する
パンをつくるだけではお客さんに選んでもらうことはできません。他店にはない独自の取り組みを打ち出して差別化をはかっていきましょう。
パン屋の大まかな売り上げ・利益を知る
パン屋の売り上げは店によって変動しますが、年収は平均350万円前後と言われています。人気のパン屋であれば年収3,000万円を出しているところもありますが、人気店で県内に支店を複数構えているケースです。
利益率も店ごとで違いますが、目指すべきとされている利益率は30%前後です。出店エリアや従業員数、営業時間に影響を受けるので一概には言えませんが、平均的な数字を押さえ、自店の経営状況の振り返りに役立ててみてください。
パン屋開業の手順
パン屋開業の前に押さえておきたい業界の傾向や成功のコツをお伝えしました。本章では、脱サラして本格的にパン屋を開業する手順を確認していきましょう。
パン職人の技術を身に付ける
パン屋を開業するには製造技術の習得が不可欠です。技術習得は①パン屋で修行するか、②パンについて学べる学校に入学する方法に大別できます。
製パン技術が身に付けられる学校として、次のようなものがあります。
- 製パン専門学校
- 調理師専門学校
- 製菓専門学校
- 栄養専門学校
学校によっては社会人向けの開業コースが用意されている場合もあります。パン屋で修業するよりも経営やパン作りの理論を学べ、サポートが充実している点が学校へ通うメリットです。しかし、高額な授業料がかかる一方で、卒業後すぐに開業できるわけではない点に注意しておきましょう。
コンセプト/メニューを考える
2つ目の手順は、具体的にどのようなお店にするのかコンセプト決めです。パン屋と言ってもハードタイプ、ソフトタイプ、菓子パン、調理パンをはじめ、店によっては焼き菓子を扱うところもあります。また、イートインスペースを設置するか、移動式にするかなど販売方法もさまざまです。
- どのような材料を使うのか
- メイン商品は何にするか
- ターゲットとなる客層はどこか(ファミリー層、観光客、会社員など)
など、開業前にコンセプトを明確にし、メニューを考案していきます。
資金計画を立てる
次の手順は開業資金の準備です。パン屋は初期費用が高く開業資金も2,000万円に到達するケースもあるため、自己資金で全て補うのは難しいかもしれません。以下でご紹介する借り入れや融資を利用することも検討しましょう。
- 日本政策金融公庫
- 自治体の制度融資
- 銀行などの金融機関からの借り入れ
他にもクラウドファンディングを活用する人もいますが、資金が確実に集まるわけではないので、借り入れ・融資の計画を立てるのがおすすめです。自己資金の割合が融資を受ける要件となっていることが多いので、自分でも貯金をしておくと良いでしょう。「地道に開業資金を貯金しつつ、必要な分を援助してもらう」というスタンスがおすすめです。
物件や設備の準備をする
資金調達の目途が立ったら、いよいよ物件選びです。物件を探しながら設備の準備を始めましょう。事業計画や客層、資金計画などと照らし合わせて、マッチする物件を妥協せずに探すことが物件選びのポイントです。
物件を選ぶときは、不動産業者だけではなく内装工事業者、銀行もいくつか物件を知っている可能性があるので問い合わせてみてください。
資格や届出を行う
パン屋開業には次に挙げる資格・届け出が必要です。
食品衛生責任者
食品を販売するので事業所に1人、食品衛生責任者がいなくてはなりません。食品衛生協会の講習会に1日参加すれば取得できます。パン製造技能士
国家資格の1つで、特級、1、2級と等級が分かれています。レベルアップするには実務経験が条件で、飛び級制度はありません。この資格は開業に必須ではないものの、持っていると技能士を名乗れるため宣伝効果が期待できます。営業許可申請
内装工事が始まるまでに、保健所へ行って事前相談をしておき、工事が完成する前に保健所に営業申請をしましょう。工事完了後に保健所の人が実地調査に来てくれ、問題なければ営業許可証が発行されます。菓子製造許可
菓子パンを提供するときには保健所に製造許可の申請をしましょう。
集客/販売促進方法を考える
オープンが近づいたらお店の宣伝をします。宣伝方法はデジタル、アナログに大きく分けられ、さまざまな方法があります。
たとえばデジタルであれば、Instagram、Twitter、FacebookなどのSNSを利用して情報を発信する方法。アナログなら折り込みチラシ、ビラ配り、ショップカードを他店に置いてもらう、イベントを開催するなどです。
ターゲットの目に触れやすいアプローチの方法を使って、お店を知ってもらう機会を増やしていくことが売り上げアップのポイントです。
脱サラして下準備を念入りにパン屋の開業を進めよう
今回の記事ではパン屋開業を成功に導くコツとして高額な初期費用をおさえる方法や、開業手順もあわせてご紹介しました。脱サラしてパン屋を開業し、経営を安定させるには念入りな下準備が重要です。思い付きで開業しても、競争の厳しい飲食業で生存することは難しいため、脱サラ前に大まかな計画を立ててパン屋の開業にチャレンジしていきましょう。
公開日:2021年11月29日