副業禁止の会社は違法って本当?企業が副業禁止にできる理由とは
最終更新日:2024年09月20日

官民挙げての「働き方改革」推進のなかで、従事している人が増えている副業。コロナ禍による労働環境の変化もあいまって、副業を始める人も増えているのではないでしょうか。
一方で「副業禁止」を謳う企業が現存しているのも事実です。この企業による副業禁止規定は、法的に有効なのでしょうか。
目次
副業禁止の会社は違法?
社会全体としては副業が推奨されているのに、個別企業では禁止されているというのは、考えてみるとおかしなことです。このあたり、法律的にはどう整合しているのでしょうか。
公務員は法律で副業が禁止されている
まず明確なのは、公務員の場合は法律的に副業禁止が定められているということです。
国家公務員は国家公務員法第103条と第104条によって、人事院の承認がない限り、営利企業の役員等の兼業、および営利企業の自営の兼業が禁止されています。
地方公務員法の第38条にも同様の規定があり、地方公務員も同じく任命権者の許可がない限り、副業が禁止されています。
公務員は、憲法によって「全体の奉仕者」であることが求められています。特定の業種・企業に利益を与えていると取られかねない行為は、慎まなければならないわけです。
会社員の副業は憲法で認められている
それでは、民間企業の会社員はどうでしょうか。大原則である憲法から見てみましょう。日本国憲法第22条には次のような規定があります。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法は職業選択の自由を認めているので、副業を行うことも認められています。会社員が本業以外に仕事をしていたとしても、それは職業選択の自由であり、何ら問題ではありません。
厚生労働省も副業・兼業を促進している
厚生労働省は、副業・兼業の普及促進を図っています。副業・兼業について、企業や働き手がどのようなことに注意すべきかをまとめたガイドラインを作成しており、その中で「雇用されない働き方も含め、その希望に応じて幅広く副業・兼業を行える環境を整備す
ることが重要」と指摘しています。
企業は労働基準法に基づき就業規則を作成しなければいけませんが、そのひな形を「モデル就業規則」として厚生労働省は用意しています。そのモデル就業規則が2018年に改定され、労働者の遵守事項の「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が削除され、副業・兼業についての規定が新設されました。
企業が副業禁止できる理由とは?
職業選択の自由という大原則があるなかで、厚生労働省が副業・兼業の普及を促進していることや、企業が副業禁止を就業規則に盛り込むことができるのはなぜなのでしょうか。
企業は従業員を管理する義務がある
企業には労働安全衛生法によって、従業員の労働時間を客観的に把握することが義務付けられています。これは給与計算を正確に行うことだけでなく、長時間労働を防ぎ、従業員の健康を守るためでもあります。
副業によって下記のような義務違反になるリスクを回避するためにも、副業禁止を規定する企業があり、合理的な理由がある場合は副業禁止規定は認められます。
安全配慮義務
労働契約法第5条によって、企業には労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるように必要な配慮をすることが求められています。その安全配慮義務に基づき、長時間労働などによって労務提供上の支障がある場合は、副業を禁止・制限することができるとされています。
秘密保持義務
労働者には業務上で知り得る秘密を守る義務(秘密保持義務)がありますが、副業によって複数の企業の下で働くようになると、秘密が漏れてしまうことも考えられます。
そこで、企業が就業規則において業務上の秘密が漏れる恐れがある場合には、副業を禁止・制限することができる規定を盛り込むことは合理的であるとされています。
競業避止義務
労働者は勤めている企業と競合する業務を行わない義務を負っています。たとえば、家電メーカーAで技術開発を行っているエンジニアが、週末に副業で家電メーカーBの技術開発を行うことはできません。
これを「競業避止義務」と呼びますが、企業が競業避止の観点から副業を禁止・制限することを定めることが認められることになります。
判例で副業の制限が認められたケースもある
副業が原因で会社員が解雇された事件で、企業側の主張が認められた判例も存在します。
「橋元運輸事件」は、会社の副社長が管理職の地位にある従業員3人を勧誘して取締役に就任させ、別の運輸会社を設立した事案です。会社側は3人の従業員を懲戒解雇としましたが、1972年名古屋地裁で下された判決は解雇を有効としました。
この判決は、就業規則における「二重就職の禁止」の意味について、次のように指摘しています。就業規則において二重就職が禁止されている趣旨は、二重就職することによって企業秩序が乱れ、従業員の会社に対する労務提供が不能、または著しく困難になることを防止するため、と。
そのため、企業による副業禁止規定は一律に違法であるとまでは言えず、一定の範囲内では合理的であると解釈されます。
就業規則における副業ルールのパターン
憲法では職業選択の自由が認められており、副業は原則自由とされながらも、企業が一定の制限を課すことも認められていることを説明しました。
就業規則で記載されている副業ルールを大別すると4つになります。法的な観点から問題が生じる可能性があるパターンもあるため、自身の勤め先がどのパターンになるのか確認してみましょう。
1.副業を一律で禁止する
副業の仕事内容や条件、理由などの如何を問わず、一律に全面禁止をする形です。前章で述べたように、企業が副業に一定の制限をかけるのは、安全配慮義務・秘密保持義務・競業避止義務からなので、一律に禁止とすると違法となる可能性が高いといえます。
そのことから、現在では副業を一律禁止とする企業は減ってきています。
2.許可制
副業を希望する従業員が副業許可申請を行い、それを企業が審査して、許可を受けた場合に初めて副業が認められる形です。
副業の許可制は、現在多くの企業の就業規則で採用されていますが、副業普及促進の流れの中で、次の届出制へと移行しつつあります。
3.届出制
副業の可否については、企業は審査を行わないものの状況把握のために届出を求める形です。副業を認める企業であったとしても、従業員への安全配慮義務は課せられていますので、状況の把握は必要とされているのです。
4.副業OK
副業に関して届出の手続きも必要なく、完全に個人の裁量に任せる形です。優秀な人材の定着や従業員の成長を促す狙いで、制限を設けないパターンです。スタートアップ・ベンチャー企業に多いようです。
副業禁止の会社で副業がバレたらどうなる?
副業禁止が就業規則に明記されている会社で副業を行い、それが会社にバレてしまった場合はどうなってしまうのでしょうか。
最悪の場合懲戒解雇もありうる
企業が個別に設定している就業規則の内容によりますが、口頭での注意・減給・降格など、最悪の場合は懲戒解雇になる可能性もあります。
こうしたトラブルを回避するためにも、事前に就業規則を確認し、必要があれば上司に相談しましょう。
ただし副業禁止違反が全て懲戒になるわけではない
前述した「橋元運輸事件」は従業員の引き抜き行為であって、秘密保持義務にも競業避止義務にも抵触する悪質なものですが、そこまで企業に不利益を与えていない副業であるならば、いきなり解雇ということはほとんどありません。裁判所は解雇権の濫用と判断するでしょう。
仮に就業規則違反が認められ、懲戒処分が下されたとしても、譴責・戒告、減給・降格・出勤停止と軽い順に行われることになります。企業に不利益を与えると判断されるような副業であったとしたら、その過程で副業を辞めるように説得されることでしょう。
下記記事では、副業がバレる仕組みや対処法を詳しく説明しているので、併せて確認してみてください。
副業がバレない方法はある?会社にバレる仕組みと対処法を解説
副業禁止の会社は違法なのかについてまとめ
今後ますます普及拡大するであろう副業。企業も、働き手も、この大きな流れへの対応が求められているのです。
企業側が副業解禁の努力を重ねるとともに、副業に従事する働き手の側も本業には支障をきたさないように努力をするなど、双方に利益のある方向へ進んでいくことが期待されます。
公開日:2022年06月22日