会社員が落語で脱サラ!落語家「立川 談志」の弟子が語る独立成功のポイント

最終更新日:2023年05月27日

高い志を持って入門しても、あまりの厳しさから挫折する人が少なくない落語の世界。その落語の世界で、没後10年以上経った今でも多くの人が憧れる落語家が立川 談志です。

今回取材したのは、立川 談志の弟子として、談志から落語のイロハや仕事への向き合い方を教わった「立川 談慶」さん。

もともと会社員と落語家を兼業していた談慶さんに、脱サラのきっかけや、これから独立して何かビジネスを始めたい方へのアドバイスなどを伺いました。

目次

会社員時代を経て、落語家や作家として活躍する「立川 談慶」

落語家と会社員を兼業…しかし自分の甘さを痛感して退職

立川 談志から「こんなはずじゃなかったは当たり前」と学ぶ

「現実が事実」自分の頭のなかの理想にとらわれないことが大切

脱サラでは「失敗は転び方を覚えるためのもの」という心持ちで

脱サラする人は「世間に正解がある」と謙虚になること

会社員時代を経て、落語家や作家として活躍する「立川 談慶」

落語家の立川 談志に憧れ、落語の道を志した立川 談慶さん。今や有名な落語家として活躍されていますが、実は落語家になる以前は、普通の会社員として働いていたそうです。

現在はどのような仕事をされていますか。

談慶さん「落語家をしています。ただ、コロナの影響で落語の仕事が飛び、それがきっかけで作家活動も始めました」

一般人からすると、落語家の仕事はなかなか想像がしにくいです。一体どのように落語家になったのか、詳しい流れを教えてください。

談慶さん「まずは入門して、見習いになるところから始まります。そして見習いとして最低限の信頼を得ると、次は前座になります。ただ、この前座というのは、師匠の身の回りの世話をする下働きのようなもの。この前座を3~4年でクリアすると羽織を着ることができ、入門してから15年くらいで真打という弟子を持てるランクになれます」

長い道のりですね…。落語家を目指す前は、会社員として働いていたと聞きましたが。

談慶さん「3年間、株式会社ワコールという女性の下着を販売する会社でセールスマンをしていました。女性関連の商品を作っている会社は、不況にも強いだろうなと思ったのが理由です。学生時代は落語研究会に入っていたので、そこで培ったトーク力が就活の面接で認められたのだと思います」

具体的にどのような仕事をしていましたか。

談慶さん「たとえば、売掛金の回収業務などをしていました。ワコールのお店を運営している方のもとへ足を運び、「3ヵ月前の集金にきました」とお金を回収するような仕事です。お金を用意できていない方から回収するときは、「お前は新しい社員か?」と逆に脅されて、かなり怖かったですね。ただ、今となってみては、そういう大変な経験があったから談志門下にも残れたのかなと思っています」

後半はこちらから

落語家と会社員を兼業…しかし自分の甘さを痛感して退職

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会社員として働きながらも、落語家になる夢は持ち続けていたのでしょうか。

談慶さん「そうですね。ゆくゆくは落語家になりたいと思っていたので、貯金をしていました。落語家を目指す上で飯を食えない期間は必ずあるので、お金を貯めておこうと考えていましたね」

計画的なんですね。お金はどのくらい貯まりましたか。

談慶さん「3年勤めて、300〜400万くらい貯めました。その頃は、談志師匠の弟子になるために、私が当時住んでいた福岡の特産物を師匠へ送ってご機嫌を伺うなどしていました。そうしたらある日、師匠から直筆の礼状が届きまして。当時の師匠のマネージャーからも「お前が福岡を席巻してみろ」などと言われ、ようやくチャンスが来たかなと思いました」

なるほど。弟子入りに向けて、会社はすぐに退職したのでしょうか。

談慶さん「いいえ。会社で働きながら、福岡吉本に1年半くらい在籍していました。ただ、在籍するなかでふと周りを見てみると、華丸大吉さんやカンニングの竹山さんなど、自分以外のほかのメンバーは学校や会社を辞めて挑戦していることに気づいたのです。退路を絶って賭けていた人たちと比べて、自分は少し考え方が甘いなと思うようになりました」

同期の姿を見て、退職を決意したんですね。

談慶さん「あとは福岡吉本の所長に「お笑い芸人で売れるようになるのは宝くじ、落語で食べていけるようになるのは競馬」だと言われたことも関係しています。落語は、マーケットがある程度できていて、求められる型が決まってる。お笑い芸人に比べればまだ可能性あると言われ、じゃあやってみようかなと」

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立川 談志から「こんなはずじゃなかったは当たり前」と学ぶ

そもそも、なぜ談志師匠に憧れていたんですか。

談慶さん「私が中学時代の頃は漫才ブームで、談志師匠が何かの番組の審査員をやっているのを見たのがきっかけです。そのときに「この人しかいない」と感じました。ただ、師匠と一緒に仕事をするにしても落語家には絶対なれないと当時は思っていたので、それなら談志師匠を使った番組を作る仕事をしようと。結局、就活でテレビ局は落ちてしまいましたが」

談志師匠への憧れから、大学では落語研究会に入ったのですね。

談慶さん「その落研で、師匠の凄さにはっきりと気付きましたね。実はもともと落語に古臭いイメージを持っていて、少し距離を置いていました。ですが、当時の落研の先輩から『らくだ』というテープを借りて聞いてから、世界が変わったのです。リズムとメロディ、毒と愛嬌など二律背反するものを談志師匠は全部持っていて、本当にすごい人だなと」

なるほど。実際に談志師匠の弟子になって、感じたことはありますか。

談慶さん「ロジカルに落語を処理しなければいけないことを学びましたね。流れとリズムでただ覚えるのではなく、この場面だったらどういうセリフを使うべきなのかなどを理詰めで考えろと教わりました」

教わる側も一苦労ですね。

談慶さん「面倒なこともありましたね。たとえばもともと談志師匠は、弟子たちに対して「古典落語を50席覚えれば必ず二つ目にしてやる」と言っていました。ですが、その教えを知った弟子たちみんなが落語を暗記してくるため、師匠は急にその方針を「暗記だけでなく踊りと歌も必須」と方向転換してきたのです。「こんなはずじゃなかった」と思いましたね。

ですが、脱サラする人も会社員も、「こんなはずじゃなかったことが起こるのは当たり前」だと受け止めることが大切です。自分が抱いた夢や理想にとらわれている人から、まず挫折していきますから」

「現実が事実」自分の頭のなかの理想にとらわれないことが大切

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見習いや前座時代の給料はどのくらいでしたか。

談慶さん「お金は全くありませんでした。前座になると、1回の寄席で5,000円、10,000円くらいもらえるようになります。3年くらい経って楽屋作法などを全部覚えると、15~16万円はもらえます」

そこでようやく一人暮らしできるくらいになるんですね。

「そうですね。そして、そこから5年くらいかけて談志師匠の次の二つ目になろうとするのですが、まだ師匠の求める基準からは離れている。そこで私は、総合的な力を自分のものにしなければなと思って、脚本やタップなど自分の枠を広げる活動し始めました」

いろいろなことに挑戦する必要があるのでしょうか。

談慶さん「そうですね。挑戦すると嫌なことも多いですが、「この嫌なことはその先で回収しよう」と視点をずらすことが大切だと思います。談志師匠も「現実が正しいんだ」とよく言っていました。自分の狭い経験や少ない知識ではじき出した結論がつまり理想なわけですから、理想に縛られず現実が事実だと思って取り組んだほうが楽なのではないでしょうか」

なるほど。ほかに何か脱サラする人におすすめな考え方などはありますか。

談慶さん「たとえば名刺を配っただけの人とのつながりが、後から太くなることもありますよね。ですから、安い仕事でも愛想よくニコニコすることが大切です。「この人といると楽しい」と思われるサービス精神の強い人のもとに、やはりお客さんは集まりますから」

脱サラでは「失敗は転び方を覚えるためのもの」という心持ちで

会社員から落語家になって、良かったことや後悔したことはありますか。

談慶さん「良かったことは、会社員経験を通して忍耐力がついたことですね。同じ時間に会社へ行くルーティンをこなすことは、覚悟がなければできないことです。このルーティンをこなせる人は、脱サラに向いていると思いますよ。脱サラして後悔したことは、特にありませんね」

なるほど。ちなみにどんな仕事や方法で脱サラするのが良いと思いますか。

談慶さん「何をするにせよ、どんなことがあっても後悔しないという覚悟を決めることが大切です。大失敗をしても「これは後で回収すれば良い」と思える人が、フランチャイズであろうと何だろうと脱サラに向いていると思います。

もし最初に何でも上手くいったら、その成功が染み付いて後から苦しくなるのではないでしょうか。まずは失敗をして、転び方を学ぶ。実際、私がこのコロナ禍を乗り越えられそうなのも「修行時代と比べれば大したことない」と思えるからなんです」

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脱サラする人は「世間に正解がある」と謙虚になること

落語家になっていなかったら、何をしていたと思いますか。

談慶さん「どうでしょう。昔、落語で食えなかった時期に過去を振り返ったことがあるのですが、昔の自分が「それで良いんだよ」と言ってくれたんですよね。

もしサラリーマンを続けて、会社の売り上げを伸ばしたり、会社で表彰されたりしたとしても、昔の自分が果たして喜んでくれるかどうか。「そんな道、歩みたくなかった」なんて言われたら自分の負けですし、常に過去の自分とのチェックですね」

後悔しない選択をすることが大切ということですか。

談慶さん「あとは軸になるものが大切です。私は今、落語という専門性があるから作家の仕事が増えているわけで、この軸がないと何をやってもダメだと思っています。脱サラする人は、自分の軸が何なのかを常に問いかけるべきでしょう。軸があるから、辛いこともある程度耐えられるのではないでしょうか」

なるほど。それでは最後に、脱サラしたい人へメッセージをお願いします。

談慶さん「現実が事実で、評価は他人が決める。世間はシビアで、正直なことしか言いません。世間に正解があるという風に考え直すと、謙虚になると思うんです。その信念をブレずに続ければ、脱サラして食っていくレベルには誰でもなれるし、そういう人を世間は放っておかないはずです」

中学時代に立川 談志に憧れ、会社員との二足の草鞋で落語家の道に入った立川 談慶さん。夢だった落語家になった後も、自分の可能性を広げるためにさまざまな仕事へ挑戦する姿は、これから脱サラする人の参考になるはずです。
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公開日:2023年01月27日