お祭り状態から生まれるものを楽しみたい。タイガーモブ代表 菊地恵理子さんインタビュー

公開日:2020年04月08日

取材場所であるビルの6階にエレベーターで到着すると、裸足の女性が小走りしているのが見えた。ここはオフィス。裸足の人などいないのだが、なぜかあまり違和感を感じなかった。

その女性が、今回の取材対象者であるタイガーモブ株式会社代表取締役CEOの菊地恵理子さんだ。

なぜ、菊地さんが裸足で走っていたのか。それはオフィスに足を踏み入れた瞬間に理解できた。

通された場所は、仕切りのないビルのワンフロア。かなり広い。そこには3社ほどが入っているというが、特に仕切りもなく、それぞれの会社がなんとなく自分たちのスペースという感じで、机やソファーなどを置いている。

「ここがオフィスです」と通された場所は、窓際の会議机。その隣に、インターン生が作業している机がある。3社いるとはいえ、フロアの半分以上、いや4分の3くらいはただの広いスペース。菊地さんが裸足で走り回っているのも納得できる。

目次

ライオンと暮らすことが夢だった少女時代

中国留学で常識が覆された

あえて海外事業がない企業を選択

独自開発のバックパッカー営業

新しいものを生み出すようなエネルギー溢れる「お祭り」を続けたい

人生を変えた3人のメンター

海外インターン市場を意味があるものに育てていきたい

生き様で語っていけるようになれば自分が商品になる

タイガーモブは、年末年始にインドとスリランカで短期海外研修を行います!

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ライオンと暮らすことが夢だった少女時代

タイガーモブは、アジア新興国を中心に世界25カ国、約180件程の海外インターンシップを紹介している会社だ。以前、こちらでインタビューした神谷さんの元部下。神谷さんが退社後に業務を引き継ぎ、2016年3月いっぱいで退職。そして4月1日からタイガーモブのCEOとして働いている。

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「3月31日までジョブウェブに出勤していたんですよ。そして4月1日からここに通っています」

菊地さんは、ジョブウェブでは「AJITORA」(アジトラ)というサービスを運営。海外の企業へ日本のインターンシップ生を紹介するビジネス。もともと海外事業のなかったジョブウェブ内で、神谷さんと二人で立ち上げた事業だ。

菊地さんは、もともとは将来の具体的な夢ややりたいことがなかったと話す。

「ライオンと暮らすとか、犬100匹と暮らしたいとか。実家が料理屋なので、そういう仕事がやりたいなと漠然と思っていたくらいです」

その後、国連に興味を持ち、関西学院大学総合政策学部に入学。しかし、大学2年生まではバンド活動をしたりアルバイトに精を出す、いわゆる普通の大学生だった。

中国留学で常識が覆された

3年生になったときに「これではいけない」と思い、中国語の勉強を始める。きっかけはお兄さんの存在だ。

「8歳離れた兄が、大連に留学に行っていたんですね。私が中学のときに、家族で大連に行ったことがあるのですが、そのときに兄が中国語で現地のタクシーの運転手と話しているのを聞いて、すごいなと思ったのを覚えています」

しかし、大学での中国語の授業に物足りなさを感じ、大学4年生のときに休学し中国へ留学。その後上海でインターンシップとして働き、合計1年間中国で過ごす。

実際に中国で暮らしてみて、中国に対するイメージが大きく変わったそうだ。簡単に言えば、自分の常識が覆されたのだ。

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「最初は、マナーが悪い、汚そう、うるさいといったイメージがあったんです。実際行ってみると、そういう面もあります。しかし、それには理由があるということを向こうに行って理解して。クラクションを鳴らしまくるのも、いろんなところから車やバイク、人が飛び出してくるから。上海万博のポスターにゴミは捨てないください、ツバを吐かないでください、列に並んでくださいと書いてある。これは地方から来ている人が多いから。この人たちは悪気あるわけじゃない、常識が違うだけなんだという。そういうことに気づいたことがおもしろくて、視野が広がる感覚があったんです」

菊地さんは、もともと国連に興味があって総合政策学部を選んだ。しかし、教授から国連には制約が多く、組織が大きすぎてやりたいとができないことも多々あるという話を聞き、何か別なことはできないかと考え始める。

ちょうど当時、マザーハウスやTABLE FOR TWOといった社会起業家が流行。それを見て、「ビジネスで社会問題を解決するという方法もあるんだ」と気づく。ビジネスで社会問題を解決するという方法に目覚めた瞬間だ。

しかし、当時の菊地さんは解決したい問題が見当たらなかった。そして、あえて苦手な分野であるビジネスの世界に踏み込もうと、就職活動をして前職であるジョブウェブに入社する。

あえて海外事業がない企業を選択

菊地さんがジョブウェブを選んだのはなぜだろうか?

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「ジョブウェブには、当時海外事業はありませんでした。しかし、逆に作れるのではと思ったんです。海外関連の仕事をしたいのであれば、普通は海外系の企業に行くと思いますが、私は海外系事業をやっていない企業ならば、やる余地があり、かつ、やらせてくれる土壌があったらやれるのではないかと思ったんです」

そして、入社2年目のときに神谷さんと海外事業部を作る。当時ジョブウェブでは国内インターンの事業はあったため、海外インターンをやってみようという割と軽い気持ちではじめたそうだ。

実際に海外事業部を立ち上げたときには、実体験をもとに困ったことを解決していくことをやっていきたいと思いつく。当時、海外インターンは数少ないながらも手がけている企業があった。しかし、そのほとんどが高額。アジアで30万〜50万円、アメリカでは100万円くらいというのが相場。これでは、行きたい学生もなかなか行けないという状況であった。

もうひとつ、おもしろいインターンが少ないという現状もあった。当時の海外インターンは、ホテルや旅行関係、ベビーシッターや農園という職種が多かった。しかし、学生は必ずしもそれらの仕事を体験したいわけじゃない。起業を目指しているのなら、起業家のもとで経験を積めたほうがいい。そう思い、おもしろいインターンだけを集め始める。

その後、試行錯誤しながら事業を続けていくが、インターンの受け入れ先を思うように広げていくことができなかった。そこで菊地さんは独自の営業方法を開発。それが「バックパッカー営業」だ。

独自開発のバックパッカー営業

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「大学時代、バックパッカーをやっていたんです。それがとても楽しくて。バックパッカーをしながら仕事ができたらベストだと思いました。まだ事業部もできたばかりで予算が少ない。でも新規開拓はしなければいけない。それで、バックパッカーをしながら営業をすることを思いついたんです」

最初は1ヶ月ほど。ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドなどを回ったという。通常の営業とはかなりやり方が違う。時間がないため、基本的にアポは取らず、現地でフリーペーパーを入手しておもしろそうな企業にメールを送る。「バックパッカー営業をしている」と伝えると、興味を持ってもらい会えることが多かったそうだ。

また、Facebookなども活用。現地到着後にFacebookに「誰か紹介してください」と書き込むとコメントが集まる。そのコメントをもとに企業を回ることもあったという。

このバックパッカー営業は、タイガーモブになってからも続けている。もはや菊地さんの基本的な営業スタイルとなっているようだ。

また、そのバックパッカー営業から生まれたのが「AJITORA祭」だ。これは、海外インターンに行っている学生と、現地の企業の人は駐在員、起業家などとの交流を目的としたもの。これにより、いろいろな場所に行かなくてもいろいろな人に会えるというメリットもある。

このAJITORA祭を始めたことにより、インターンを受け入れたいという企業も現れはじめた。この祭りは、タイガーモブになってからも名称を変えて続けられている。

菊地さんは、バックパッカー営業と交流会という、2つの新しい営業方法を生み出したのだ。

新しいものを生み出すようなエネルギー溢れる「お祭り」を続けたい

タイガーモブになってからは、AJITORA時代の海外インターンの紹介事業がメインだ。しかし、菊地さんが目指しているところは、少し違うようだ。

「私はコミュニティを作りたいと思っていて。今、Facebook上にタイガーモブコミュニティというものがありまして、インターンに行く人、現在行っている人、終わった人がそこで情報交換をしています。そのほか、海外で自主的にインターン生が集まって情報交換をしたりして切磋琢磨し合う。こういう状態をもっともっと作り出したいんです」

誰かと誰かが出会って、新しい何かが生まれる。そして、人それぞれやりたいこと、得意なことがあり、その強みを活かしてリーダーシップをとっていく。そんなエネルギーが集結する「お祭り」を継続したい。それが菊地さんがやりたいことなのだ。

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タイガーモブの床には、一枚のまっさらな白い布から作られたトラの絨毯がある。そこには、インターン生や関係者がそれぞれの夢やメッセージを書き込んでいる。これも、「お祭り」のひとつなのだ。最近では海外インターンの写真を切り貼りして作った大きな世界地図もあるという。

人生を変えた3人のメンター

タイガーモブを設立してから、菊地さんが予想した以上に業績はよいという。しかし、独立をするときはかなり葛藤があったようだ。ジョブウェブで行っていたAJITORAにも愛着があり、やりたいことを自由にやらせてくれた会社にも恩返したい。その事業を引き継いで独立するということも考えていた。どういう方向性で、具体的にどのようにしたら良いかまとまらず、1年ほど経過してしまう。

そのとき、菊地さんは3人のメンターに出会う。

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「無条件で応援してくれる人、視座を上げてくれる人、決定してくれる人。3人のメンターがいるんです」

無条件で応援してくれるメンターは、現在の顧問。菊地さんが起業で悩んでいるときに、目の前で各方面に電話をしてさまざまな障害を取り除いてくれた。

視座を上げてくれるメンターは、話す度に見る世界を変えさせてくれ、そして菊地さんのありのままでいいとアドバイスをくれ、それにより菊地さんは吹っ切れた。

決定してくれるメンターは、迷っている菊地さんの背中を押し、起業する日などを選定して話を前進させてくれた。

この3人との出会いがなければ、菊地さんはタイガーモブを立ち上げてはいなかっただろう。しかし、そのような出会いを引き寄せたのは菊地さん自身だ。

「起業をしようと思ったときは、覚悟が足りなかったと思います。50%くらいだったのではないでしょうか。でも、迷っていることを周りの人たちに話し始めてから、どんどん覚悟が決まっていった感じですね。言う人が多ければ多いほど、やらなければならないという風になっていきました。やるやる詐欺は良くない」

自分の思いを素直に話すことで、さまざまな人が応援してくれるようになる。そして、3人のメンターと出会ったことが、1年間の逡巡に終止符を打つことになった。やはり、一人で考えているだけでは前に進めないことのほうが多いのだ。

海外インターン市場を意味があるものに育てていきたい

現在は、毎日が楽しいと話す。人生でこんなにおもしろいことがあるんだと気づいたそうだ。

「最初のころは、初めて名刺を作ったり、Webサイトを作ったり、ステッカーを作るということに感動していました。今は面白いと感じることはまた若干変わってきていて。立ち上げて5ヶ月目ですが、自分が知らないところでタイガーモブ自体が成長しているんです。現在は社員2人、インターン生2人でやっているんですが、それぞれががんばってくれているのはもちろん、海外のインターン生たちが自主的にイベントを開催してくれたり、私が関与していないところで広まっているんです」

業務のほうも順調。学生向けの海外インターンの紹介だけではなく、企業研修の受注や社会人向けのインターン紹介、海外インターン経験者を企業に紹介する採用関係の仕事も手がけるようになった。

これらは、菊地さんにとってはいつかやりたかったことばかり。しかし、思ったよりも早い時期に実現したという。

タイガーモブの設立までには時間がかかったが、いざ立ち上げてみたら順調そのもの。そんな菊地さんは、これからをどう考えているのだろうか。

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「海外インターンという市場は、多分ある程度までは広がっていくと思っています。しかし、ニッチで市場自体が小さいので、これを育てていくことをやらなければいけないと思っています。オリンピックも控えているので、この5年以内に育て上げたいですね。また、きちんと成長にフォーカスするなど、長期的な目で見たときにきちんと意味があるものにしたいと思っています」

生き様で語っていけるようになれば自分が商品になる

また、採用に関しても変えていきたいと話す。

「海外で留学なりインターンなりを経験している人が、採用に対して不利な面があります。海外に滞在していることが原因で情報収集が不十分だったり、採用時期が決まっていて説明会に直接行けなかったり。そういうのはもったいないと思っています。がんばっている人がなんで不利になるんだろうと。一方、企業は海外経験者を採用したいけど、なかなか方法を変えようとしていない。もっと就職や採用活動がしやすいような仕組みに変えたいと思っています」

ただ、学生を海外に送り出すだけの事業ではない。その貴重な経験をきちんと活かせる場を提供したい。

「私がやりたいことはお祭り状態。その状態であれば基本OKなんです」

屈託なく笑う菊地さんは、先のことはわからないという。しかし、自分のやるべきことはわかっている。インターン経験者の就職を見届ける。それはファーストセットだと思っている。その先は、ユーザーと共に日々を過ごす中でこれから見えてくるだろう。

最後に起業を目指している人へメッセージを伺った。

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「やりたいんだったらやればいいと思っています。あと、ガンジーの言葉に『見たいと思う変化にあなた自身がなりなさい』というものがあるのですが、まさにそれだと思います。こうしたいなとか、こうなってほしいなと思っているんだったら、まず自分がその変化にならないと何も変わりません。生き様で語っていけるようになりたいですね。そうすれば、自分がやっていること全部が商品になると思うんです」

ガランとしたオフィスは、徐々にタイガーモブらしさでいっぱいになっていくことだろう。もう、裸足では歩けないくらいの規模になったとき、タイガーモブは次のステップに進むのかもしれない。

それまでは、お祭り状態を持続すること。祭りの熱が最高潮に達したとき、何が生まれるのだろうか。それは、まだ菊地さんにもわからない世界なのだ。

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タイガーモブ株式会社

http://tigermov.com/

タイガーモブは、年末年始にインドとスリランカで短期海外研修を行います!

年末年始インド合宿

http://www.tigermov.com/info/detail/39

年末年始スリランカ合宿

http://www.tigermov.com/info/detail/41

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