銭湯経営の脱サラで年商1.5億円!年収60万円から「引き際を決めた背水の陣」で独立成功

最終更新日:2023年05月27日

空前のサウナブームの影響により、盛り上がる銭湯などの温浴施設。

今回取材した湊 三次郎さんは、全国の銭湯を巡り、今では銭湯の経営やコンサルも行う銭湯への情熱にあふれる人物です。初年度の年収は60万円だったそうですが、一体どのようにして年商1.5億円の経営者になったのでしょうか。

独立の苦労や売り上げアップの工夫、これから銭湯を始めたい方や脱サラを目指す方へのアドバイスを伺いました。

目次

経営からコンサルまで手がける「銭湯のプロ」の仕事とは

「銭湯が無くなるのをどうにか止めたい」情熱と勢いで脱サラ

初年度は年収60万円…客数1日80人の目標を目の前に集客に苦戦

「あと1年やってダメならやめる」引き際を決めた背水の陣で右肩上がり

「銭湯を残したい」銭湯への愛や経験、使命感が礎に

脱サラしたいなら、まずは小さく始めて適性を判断すること

経営からコンサルまで手がける「銭湯のプロ」の仕事とは

銭湯への情熱とともに、勢いで銭湯経営へ踏み切った湊さん。サウナブームの影響もあり今年は最高年収をたたき出したそうですが、「初年度の年収は60万円だった」と苦労を話します。

銭湯の経営とは、一体どのようなことをしているのか教えてください。

湊さん「この京都の梅湯のほかに、源湯、容輝湯、みやの湯、にんじん湯を大阪や滋賀、愛知で経営しています。業務的な部分でいえば、毎日お風呂を沸かして掃除をするなど、ルーティンワークがほとんどですね。ただ、この日常業務は今はすべて従業員に任せています」

では湊さんは、宣伝や広報の仕事がメインということでしょうか。

湊さん「はい。集客が厳しい店舗も引き継いでいるので、集客面をどうするかなど全体的な管理をしています。あと銭湯は建物や設備が古くいろいろなエラーが出るので、その対応もしています」

なるほど。経営業務のほかにも、コンサルタントの仕事をしていると聞きましたが。

湊さん「はい。うちから出向社員という形でスタッフを一人客先へ送って、彼が店長になり、うちが提案した経営改善を行っていくスタイルのコンサル業務もしています。

たとえば喫茶店が併設した銭湯をコンサルしたことがあるのですが、改装して喫茶店もしっかり稼働させることを提案をしました。その結果、喫茶店の収益が上がり、さらに喫茶店がきっかけで銭湯へ来てくれる人も増えました」

「銭湯が無くなるのをどうにか止めたい」情熱と勢いで脱サラ

銭湯が無くなるのをどうにか止めたい」情熱と勢いで脱サラ

今は経営が順調だそうですが、やはり最初は大変でしたか。

湊さん「1年目が最も大変でしたね。薪を取りに行く日が週に2回ほどあって、朝7時に出発する必要があるんです。当時は23時まで銭湯を営業していたので、そこから風呂掃除などをすると全て終わるのは深夜1時頃。まさに激務でしたね。

もともと私には銭湯経営の経験はなく、梅湯を始める前に1ヶ月間名古屋の銭湯で住み込みで修行しただけ。学生時代に梅湯でバイトしていましたが、それも番台として座っていただけでしたから」

寝る暇もない激務ですね。湊さんはもともと、別の業界で働いていたと聞きましたが。

湊さん「アパレルの会社でショップ店員をしていましたが、銭湯を始めたい気持ちのほうが強かったので24歳の頃に辞めました。もともとバイトをしているときから、銭湯が無くなっていくのを何とかしたいという気持ちが強かったのです。私がアパレルを辞めるタイミングで梅湯が撤退するという話を聞き、それなら継ぎたいとお願いしてそのまま継いだ流れです」

まさに勢いで脱サラしたんですね。

湊さん「そうですね。何も分からなくても、まずは全部やってみれば身につくだろうと思って挑戦しました。梅湯は集客が厳しいのに加えて、設備の問題など廃業のいろいろな課題をはらんでいる銭湯でした。その銭湯を素人の若者が復興できれば、どこの銭湯でも通用するのではないかと思ったのです」




初年度は年収60万円…客数1日80人の目標を目の前に集客に苦戦

とはいえ、廃業する予定の銭湯をそんな簡単に継がせてもらえるものなのでしょうか。

湊さん「オーナーには厳しいからやめた方がいいと言われましたが、こちらも「とりあえず3年やらせてください」と。最終的には、オーナーが情熱に負けた感じで任せてもらえました」

経営を始めるにあたり、お金はあったのでしょうか。

湊さん「お金は何もなかったですね。サラリーマン時代に貯めた100万円があったのと、ボロボロの釜場を入れ替えるための300~400万円は親から借りました。ロビーの改装や諸経費などを含めると、トータルで500万円くらいかかっています。解体作業など、自分でできるところは自分でやったり、知り合いの業者に頼んだりしながら安く済ませる工夫もしましたが」

それで、運営資金はどのくらいかかりましたか。

湊さん「私が店を回していたので人件費は0円でしたが、家賃や光熱費、薪代などの経費が70~80万円くらい。1日の入浴人数が70人くらいで少し黒字だったので、目標を80人に設定しましたが、結局最初の1年間は70人前後で横ばい状態に。そこから全然上がる見込みはなく、月に一回100人入る日があるかという感じだったので、集客は相当難しいんだなと思いました」

1日70人ですか…。そのときの初年度の年商はどのくらいだったのか気になります。

湊さん「年商1000万円で、年収60万円。月15万円くらい黒字が出ていて、そこから自分の給料の5万円を引いて、あとは10万円が残るといった感じですね」

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「あと1年やってダメならやめる」引き際を決めた背水の陣で右肩上がり

あと1年やってダメならやめる」引き際を決めた背水の陣で右肩上がり

銭湯への情熱を持ってやる気に満ちた状態で脱サラした湊さんですが、初年度の年収は60万円という現実。「何度も辞めようと思った」と話す湊さんですが、”辞める時期を決める”ことで売り上げが伸びていったそうです。

湊さん「お客さんは増えないし、きつい常連さんには怒鳴られるし、業者にはお金をぼったくられるし。お金はまたほかの仕事をして返せば良いやと思っていましたが、それよりも精神的にきつかったです。なので、あと1年やってダメだったら辞めようと決めました」

引き際を決めたんですね。しかし、そこから売り上げが伸びていくと。

湊さん「はい。業者が漏水を直せないのが一番の問題だったのですが、業者を変えたところすぐに直ったのです。そうすると毎日準備する時間が1時間半くらい短縮できて、日々の業務が少し楽になりました。あとは、怒鳴ってくる常連さんを出禁にしたことで、そこから気持ち的にすごく楽になったのも大きいです」

精神面で楽になり、前向きになれたんですね。

湊さん「辞める理由もなくなったので、これならもう少しだけ頑張れるかもなと。じゃあこのままただ続けるのではなく、土日の朝風呂を始めようと思い、通常の15時半〜23時に加えて、土日の朝6時半~12時にも営業を始めました。そこから徐々にお客さんが増えて1日平均80人を達成し、100人を超える日も増え始めてきたんです」

「銭湯を残したい」銭湯への愛や経験、使命感が礎に

そこからどんどん右肩上がりに収益が上がったんですね。

湊さん「今年で8年目になるのですが、先月の売り上げが660万円で過去最高でした。当時は70万や80万くらいの売り上げだったので、自分でも想像できません。1日平均100人なんて無理だと思っていたのが、今では1日平均320人、330人と来ているのですから」

さらにコンサルの仕事なども始めて、銭湯以外の収入も上がってますよね。

湊さん「昨年に法人化して、法人全体の年商でいうと1.5億円くらいですかね」

その成功は、湊さんが継続されたからこそだと思います。ほかに何か工夫されたことはあるのでしょうか。

湊さん「工夫は、取材を受けまくることですね。時代が変わって7〜8年前と比べてSNSが普及しているので、大きいメディアを見て来たという人もいれば、友達のSNSを見て来た人もいます。あとはコロナ禍のサウナブームなど、いろいろな要因が重なって上手くいったと感じています」

工夫もそうですが、湊さんの銭湯への愛や銭湯での経験も活きていそうです。

湊さん「やはり、気持ちやメンタルの面で活きていますね。全国の銭湯を巡って楽しい思い出があることに加えて、やはり私には「銭湯を残さなければ」という使命感が根底にあるんです。銭湯があることで自分の人生が豊かになったので、その経験値が事業を続けていく礎になっています」

脱サラしたいなら、まずは小さく始めて適性を判断すること

今はサウナブームで銭湯を始めたい人も多いかと思います。0から銭湯を始めるのには、どのくらいお金がかかるのでしょうか。

湊さん「建築費用が大体2億円です。新築で2億で銭湯を作って、客単価が500円と少し。利益が出ないのはもちろんですが、そもそも2億円を貸してもらうのが難しいでしょう。やはり銭湯は、家族経営で地持物件だから成り立っている部分があります。良くも悪くも家族内でやっているので、人件費的な部分も不透明にできますよね」

では、銭湯を始めたい人がすべきことは何なのでしょうか。

湊さん「この業界に入ること自体が難しいので、どこかまずバイトできるところを探すしかないと思います。いきなり経営を始めるのは、相当お金を持っていないと無理でしょう。

引き継ぐにせよ、普通のオーナーだったら相続の問題も絡んでくるので、賃貸で薄い利益を得るより売却した方が良いと考えるはず。銭湯に対する想いはもちろんですが、経験も重要なのでバイトで実績を作ることが大切だと思います」

ありがとうございます。それでは最後に、脱サラしたい方へアドバイスをお願いします。

湊さん「脱サラしたいなら、今すぐ会社を辞めたほうが良いということです。例えば1,000万円かけて新事業をやりたいなどはおすすめしませんが、数百万円で仮に何か失敗しても、もとの生活には戻れますから。脱サラには合う合わないがあるので、やってみないと分からないことも多いと思います」

年商1,000万円から年商1.5億円の銭湯経営者として成功した湊さん。戦略や人脈も大切ですが、湊さんのように情熱を注げるものでまずは小さく始めてみて、自分に合うかどうかを判断することも大切かもしれません。

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公開日:2023年03月03日