なぜ就農を選んだ?世界で活躍する会社員が「栃木のナス農家」で脱サラ・独立

最終更新日:2023年07月07日

会社からそれなりの給料をもらったり、昇進したりしてしまうと、脱サラのタイミングを逃がしてしまいがちです。「いつか時期が来たら脱サラしよう」と思いつつ、会社を辞めれずにいる方もいるのではないでしょうか。

今回取材した賀川 元史さんは、40歳で脱サラに向けて一歩踏み出す決断をし、実家の農家を継ぐ形で独立を果たしました。

そんな賀川さんに、脱サラの流れやタイミング、売り上げ、年収、意外と高い運営資金などを伺ったので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

世界で活躍する仕事から、地元栃木の「ナス農家」で脱サラ

なぜ農業で脱サラ?会社で働いた経験が独立後も生きている

売り上げは2,200万円!JA出荷は市場価格に左右されやすいのが難点

重油代だけで100万円!意外と高いナス農家の運営資金

自然災害でナスがほぼ全滅…それでもナス栽培を続ける理由

脱サラに後悔はなし!一歩踏み出す勇気が大切

世界で活躍する仕事から、地元栃木の「ナス農家」で脱サラ

家族全員で栃木県へ移住し、父親に弟子入りする形で農家を始めた賀川さん。農家を始めるまでの流れや、未経験からどのように農業で生計を立てたのか詳しい話を聞きました。

賀川さんは今、ナスの栽培がメインの農業をしているそうですが、もともとは何の仕事をしていたのか経歴を教えてください。

賀川さん「大学を出てから18年ほど、プラントエンジニアリングの会社でエンジニアをしていました。石油や天然ガスを産出する国で、石油化学関連の工場を設計して建てる仕事ですね。

会社員だった18年間のうち、半分くらいは海外の現場に駐在し、3年ごとに日本と海外を行き来するような生活をしていました」

農業とは全く違う仕事をしていたんですね。

賀川さん「子供の頃は、自分が農家を継ぐとは全く思っていませんでした。世界で活躍できる仕事に就きたいと思っていたので、望んでいた仕事を会社員になってできていたと思います。

退職のきっかけは、会社を辞める1年前のこと。さらに上のポジションに推薦されて、「もしこの話を受けたら会社を辞められないな」と思ったので、退職を決めました。それにもともと、地元栃木に帰ろうとは思っていましたから」
脱サラ後の仕事はどう選ぶ?

なぜ農業で脱サラ?会社で働いた経験が独立後も生きている

altなぜ農業で脱サラ?会社で働いた経験が独立後も生きている

それでなぜ転職ではなく、就農を選んだのか気になります。

賀川さん「30代後半くらいから、自分で事業を始めたいと思っていました。実家が農家というのもあるし、これから農業はどんどん人が少なくなっていく。そこに飛び込んで新たに事業を始めるのは、良いチャンスかなと。それに実家に技術も土地もあるので、それを利用するのが一番低リスクですから」

すでに基盤は整ってますからね。賀川さんにとって、脱サラするタイミングは早かったですか。それとも、遅かったですか。

賀川さん「本当にやりたいことがあるなら、もっと若いうちに挑戦して、その挑戦を繰り返すのが良かったんだろうなと思います。ただ、自分の性格を考えると、私はあのタイミングしかなかったのかなと。それに、長く会社にいたからこそ、会社でスキルや経験を得られたという自負もあります」

なるほど。やはり会社員時代の経験が、今でも活かされている感覚はありますか。

賀川さん「はい。私は会社員時代、プロジェクト管理をしていたので、農業でもどの作業をいつまでに終わらせるかなど、スケジュール感覚を持って進められています。コスト感覚ももちろんですが、会社で身に付けた知識や感覚が自然と活きている気がしますね」

売り上げは2,200万円!JA出荷は市場価格に左右されやすいのが難点

農家を始めるにあたり、ナスを育てるのは最初から決めていたんですか。

賀川さん「何を育てるにせよ、最初は父と祖父がやってきたナスで技術を身に付けようと思っていました。ナスを父に教わりながら作り始めて、今年で4年目が終わるところですね。会社を辞めてその翌年のシーズンから、月20万円ほどもらいながらお手伝いという形で勉強していました」

月20万円ですか。ちなみに、会社員時代の最高月収を知りたいです。

賀川さん「やはり、海外に行っていると給料のほかに現地手当があるので、一番もらっていた頃で1,000万円くらいでしょうか。今は給料を家族に払っているので、農業収入の売り上げとしては2,200万。農業所得としては500~600万円くらいですね。事業として赤字になったことはありません」

売り上げは徐々に上がっていくものなのでしょうか。

賀川さん「それが、うちはJA出荷が8割なので、市場価格によって売り上げが左右されてしまうんです。どうしても市場価格が安いときは、売り上げもそれに比例して下がってしまいますから。思ったよりも売り上げが伸びないこともあり、やはり波はありますね」

重油代だけで100万円!意外と高いナス農家の運営資金

JA以外にも売りに出しているんですか。

賀川さん「ネットでも販売しています。父の代まではJAにしか卸してませんでしたが、そうすると単価が市場価格に左右されてしまうので。自分で値段を決められるネットの直売を始めました」

ネット販売なら自由に決められますからね。
ちなみに、ナスを育てるのにランニングコストはどのくらいかかるものなのでしょうか。

賀川さん「費用としては、電気代と重油代、光熱費、肥料代など。冬はマイナス7~8度になるので、ハウスに暖房を焚くため結構かかります。重油代だけで、昨年12月の請求は100万ぐらいでした。電気代は2万ぐらいです」

100万円も重油代がかかるんですね!

賀川さん「安いときは今の半分くらいの単価でしたが、今は倍近くになっているので。ナスの売り上げの半分弱ぐらいは、光熱費などで消えてしまう感じです」

ランニングコストがかなり高いんですね。驚きました…。ただ、実家の農家を継いでいるので、開業資金はあまりかかっていないのでは。

賀川さん「そうですね。基本的な機械類は最初からありますし、土地もあるので、農業を始めるために何か必要だったものはありません」
脱サラして農業を始めるには?始め方と始めてよかった・大変だった体験談を紹介!

自然災害でナスがほぼ全滅…それでもナス栽培を続ける理由

alt自然災害でナスがほぼ全滅…それでもナス栽培を続ける理由
脱サラ初期の苦労についてお聞きしたいです。

賀川さん「農業をしていて苦労を感じたことはないですが、大変だなと思ったのは自然災害でしょうか。2019年の終わりに、大きな台風が立て続けに2回来たんです。

露地栽培でやっていたナスがほとんど全滅してしまい、そのナスを捨てるための収穫が2週間くらい続きました。そのとき、たくさん捨てるナスを見ていたら、やはり農業は厳しいなと感じましたね」

農業はやはり自然災害が大敵ですね…。結局その後ナスはどうなったんですか。

賀川さん「これはナスの利点で、一回駄目になってもまた新しい芽が吹いて生るんです。そのときの経験もあり、ナスはリスク分散になる野菜だなと思って今でも続けています。最初は父の技術を引き継ぐ形で始めただけでしたが、ナスは相当強い野菜だなと感じています」

なるほど。ちなみに、賀川さんのところのナスは、ほかのナスとどのような違いがありますか。

賀川さん「この地方で作っているナスという意味ではほかと大差ありませんが、ほかの地域と比べると皮が柔らかくて、身にとろみがあるといわれています。

栽培方法で意識しているのは、あまり肥料を与えすぎないこと。化学肥料を与え過ぎると野菜独特の歪みや癖が出てしまうので、甘みが出るように肥料や水を与えています」

脱サラに後悔はなし!一歩踏み出す勇気が大切

脱サラして良かったことや、悪かったことを教えてください。

賀川さん「脱サラして悪かったことは思いつきません。サラリーマンの頃のほうが収入は高かったですが、あの頃にはできなかったことが今はできていますから。良くも悪くも自分のやりたいようにやって、少ないながらもお金を自分で作り出している実感がある。それは本当に、会社員の頃にはなかった経験です」

会社員時代とは、また別のやりがいがあるということですかね。

賀川さん「ありますね。今は極端な話、24時間何をやっていても仕事している感覚がありません。全部自分のためにやっているので、全ての時間を自分の次のステップのために使えている充実感があります」

賀川さんとしては、独立して良かったということですね。ありがとうございます!

それでは最後に、これから脱サラしたい方へメッセージをお願いします。

賀川さん「やはり脱サラには一歩踏み出すことが必要で、決断をするかしないかだと思います。もちろんその一歩を踏み出すためには、それなりに準備しておくことも必要。将来このままだと後悔するかなと少しでも思ったら、踏み出してみるべきかなと思います」

農作物の栽培のほかに、育苗の体験を通してナスに愛着を持ってもらう「里親プログラム」も行っている賀川さん。

新しいことを始めるのには勇気が必要ですが、脱サラのきっかけを待つだけでなく、準備を進めながらチャンスをつかむための一歩を踏み出すことが大切です。
定年なしの仕事を見る

公開日:2023年07月07日

関連するタグ