開業資金の確定申告とは?適切な勘定科目の仕訳方法を解説

最終更新日:2022年05月26日

事業を始める際は開業資金が発生します。確定申告をするときに開業資金を経費として計上して良いのか、それとも別に方法があるのか気になっている人は多いでしょう。そこで本記事では、初めて確定申告する人にも分かりやすいよう、開業費の申告方法について詳しく解説します。何から手をつければ良いのか分からない人は、ぜひ参考にしてみてください。

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目次

開業資金の確定申告方法

開業資金を確定申告する際の基本

開業資金の勘定科目と仕訳方法

税制度を確認して開業準備を進めよう

開業資金の確定申告方法

事業を始めるときは、開業準備をするために出費がかかるものです。パソコンや周辺機器、事務用品などの事業を始めるために支払った開業資金は、一旦は勘定科目「繰延資産」で処理し、複数年に分けて経費として償却(※)します。
開業資金の処理について正しく把握できるよう、まずは経費と繰延資産について知っておきましょう。

※数年に分割して経費として処理すること。

経費とは

経費とは、事業を行う上で使用した費用のことです。消耗品費や交際費、通信費などが該当します。税金は収益から経費を差し引いた事業所得に税率をかけて算出するので、経費が多いと事業所得は少なくなり、税金も減ります。では、開業資金は経費に含まれるのでしょうか?

開業資金は「繰延資産」として処理し、毎年分割した分を経費として償却するのが正しいやり方です。回りくどいやり方ではありますが、開業資金で購入したものは開業した年だけでなくずっと使い続けられるものなので、数年にわたり分割して償却するべきと考えられています。

ただし、全ての開業費が経費の対象になるわけではありません。経費として申請できない開業費には、以下のものが挙げられます。

  • 10万円以上の備品(パソコンや周辺機器など)
  • 商品の仕入れ代金
  • 物件の敷金・礼金

繰延資産の意味

繰延資産とは、購入したものやサービスが複数年にわたり影響を及ぼす資産のことです。開業費があるからこそ事業が運営できるのであり、長期的な利益を生む可能性が高いと考えられます。
また繰延資産には、開業費のほかに以下4つの費用も計上できます。

  • 創立費(会社設立前にかかった費用)
  • 株式交付費(新株発行にかかった費用)
  • 社債発行費(社債発行にかかった費用)
  • 開発費(新規顧客の開拓や新技術の開発などにかかった費用)

繰延資産は償却する方法を「均等償却」と「任意償却」から選べます。均等償却は取得した資産を、定められている年数(3~5年)で割って均等に償却する方法です。
一方、任意償却は償却期間内に経費として計上する費用を納税者が決める償却する方法です。
開業したばかりの年度は売上が伸びず赤字となることが予想されます。節税効果が薄れてしまうので、開業資金は黒字に転じた頃にまとめて経費に上げられるように、任意償却を選ぶのが一般的です。

ここで、事務用品を購入した場合、開業前と後では会計上の仕訳がどのように異なるのかチェックしておきましょう。

例)開業前に3,000円の事務用品を現金で支出した場合

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 適用
開業費 3,000円 元入金 3,000円 事務用品購入

開業するために購入したと考えられるので、借方勘定科目は「開業費」となります。また開業前は事業用の資金がない状態なので、貸方勘定科目には現金ではなく「元入金」を使います。

例)開業後に3,000円の事務用品を現金で支出した場合

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 適用
事務用品費 3,000円 現金 3,000円 事務用品購入

開業した後は事業を始めている状態です。そのため、借方勘定科目には「事務用品費」、そして事業資金もあるので貸方勘定科目には「現金」を使います。

購入するものが同じでも、購入するタイミングによって仕訳する方法が異なるので、注意してください。

開業資金を確定申告する際の基本

開業資金を確定申告する際の基本

開業資金のあり方を知ったところで、ここからは開業資金を確定申告する方法について解説します。「そもそも確定申告は必要なの?」「いつ申告するの?」など、基本的なことから解説するので、今まで確定申告をしたことがない人も参考にしてみてください。

開業資金を確定申告する目的

日本では「申告納税方式」という、自分で納税額を申告して納税する税制を採用しています。そのため、個人で収入を得ている人は確定申告が原則必要です。

そもそも確定申告とは、1月1日から12月31日までに得た所得(収入から経費と控除を引いた金額)を申告し、納税金額を確定するために行う作業のことです。年度会計をまとめ、翌年の2~3月に申告手続きをしなければいけません。

確定申告後は所得税を支払うケースだけでなく、払い過ぎた所得税があれば還付されることもあります。ただし、事業が赤字の場合や事業所得が38万円以下の場合は、所得税を納税する必要がないので確定申告は必要ありません。

「事業を始めたばかりで赤字傾向にあるから、開業資金は黒字に転向してから確定申告しよう!」と考えている人は多いはずです。確かに納税のことを考えると間違いではありません。しかし、確定申告には税金を支払う以外にも大事な役目があり、申告しないと意外なところで後悔することになり兼ねません。

例えば、住宅ローンや自動車ローンなどの各種ローンを組むとき、所得を証明するものが求められます。個人事業主は確定申告書が対象となりやすいので、無申告の場合、ローンを組むのが難しくなる恐れがあります。

ほかにも、無申告によって無収入・低収入であることを証明できず、国民健康保険料の軽減措置が受けられなかったり、非課税証明書が発行できなかったり、さまざまなところで支障が出る可能性があるので注意しましょう、

確定申告の対象者

開業して事業を始めている全ての人が、確定申告の対象者になるわけではありません。どのような人が対象者になるのか、個人事業主と法人に分けて解説します。

個人事業主で開業した場合

  • 事業が黒字の場合
  • 事業所得が38万円以上

ただし、前述した通り、赤字の場合でも確定申告したほうがローンを組むときや補助金・助成金の申請を出すときに手続きはスムーズです。

法人で開業した場合

法人の場合は個人事業主と異なり、原則として全ての法人が確定申告をする必要があります。法人が行う確定申告は以下の4つで、それぞれに対象者や期限が定められています。

  • 法人税(事業年度終了日(決算日)の翌日から2ヵ月以内に申告)
  • 消費税(売上1,000万円を超える場合が対象)
  • 法人事業税(事業を行う全ての法人が対象・事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内に納付)
  • 法人住民税(事業を行う全ての法人が対象・事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内に納付)

共通の注意点

また個人事業主・法人に関係なく、事業を始める前に会社勤めだった人も確定申告が必要です。本来、会社勤めの人は毎月の給与から所得税が引かれています。
しかし、所得税を決める税率は前年の給与を参考にしているので、正しい税額ではありません。そこで、年末調整を行うことにより、払い過ぎている分は還付、足りない分は12月の給与から天引きして調整しているのです。

年度途中で退職した場合、勤めていた会社では年末調整は行ってくれません。そのため、自分で確定申告しなければ、払い過ぎている所得税を取り戻すことはできません。申告期限は退職後5年なので、早めに申告するようにしましょう。

なお、会社に勤めながら副業で収入を得ている人もいるかと思います。副業で年間20万円以上の所得がある場合は確定申告が必要になるので、該当する人は忘れないように気をつけてください。

流れやスケジュール

確定申告の必要性を把握したところで、具体的な流れやスケジュールについて解説します。開業費を確定申告する予定の人は、参考にしてみてください。

まずは、開業する際に必要なものやサービスを購入したときに受け取った領収書は、5~7年間(※)の保存が義務づけられています。確定申告が終わった後も保存しておく必要があるので、捨てないよう注意してください。

続いて、領収書を基に帳簿をつけましょう。帳簿は確定申告時の提出書類には該当しませんが、帳簿をつけることは事業を行う者の義務です。正しく申告するためにも、しっかり記帳するようにしましょう。

開業費は明細ごとに分けて記帳するのが望ましいですが、合計金額を出してまとめて記帳しても問題ありません。例えば、開業するにあたって2万円分の事務用品と、3万円のプリンターを購入したとします。この場合、会計上の仕訳は以下のようになります。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 適用
開業費 50,000円 元入金 50,000円 事務用品、プリンター購入

そして、開業費を経費として償却した際には、帳簿には以下のように記帳します。

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 適用
繰延資産償却 50,000円 開業費 50,000円 償却

あとは帳簿を基に申告書用紙に記載、または確定申告ソフトに入力するだけです。

なお、確定申告の期間は2月16日から3月15日までとなります。期間を過ぎてしまうと延滞税を課せられる可能性があるので、期間内の提出を心がけましょう。

※白色申告の場合は5年間保存、青色申告の場合は7年間保存。

青色申告と白色申告

確定申告には「青色申告」と「白色申告」があります。それぞれの違いを表で解説します。

青色申告 白色申告
始める際の手続き 税務署への「青色申告承認申請書」の提出 なし
記帳方式(帳簿の付け方) 複式簿記 単式簿記
確定申告時の提出書類 青色申告決算書 収支内訳書
赤字繰り越し 可(3年間) 不可
メリット ・最大65万円の特別控除が受けられる
・家族への給料を経費にできる
・家賃・光熱費を経費にできる
・青色申告よりも簡単
デメリット ・白色申告よりも面倒
・事前申請が必要
・特別控除が受けられない
・経費にできる項目が少ない

開業費の有無に関わらず、事業を行っている人なら青色申告がおすすめです。経費にできるものが多いうえに、特別控除が受けられるので、大きな節税につながります。

開業資金の勘定科目と仕訳方法

 開業資金の勘定科目と仕訳方法

開業資金は一旦、繰延資産という資産科目で計上してから、経費として償却する形で少しずつ計上します。事業が黒字の場合は、収入から経費という形で引けるので、節税にもつながります。

仕訳帳の記入例

開業するのに合計10万円以上の支出があった場合、繰延資産に計上した上で、5年に分けて経費として償却します。ちなみに10万円以下の場合は、各費用の内容に沿った勘定科目に仕訳して経費計上できます。ここでは、合計10万円以上だった場合を想定し解説します。

ここで、取引の詳細を日付順に記載して管理する「仕訳帳(※)」の記入例を紹介します。

例)1月1日に開業。開業費の合計が50万円かかり、すべて現金で支払った場合

日付 借方 貸方
1月1日 開業費 500,000円 現金 500,000円

50万円の開業費を5年間で均等償却(500,000円÷5年×当該年度の月数/12ヵ月)した初年度の経費科目の仕訳

日付 借方 貸方
償却した日付 開業償却費 100,000円 開業費 100,000円

なお、開業費の場合は、償却費用として計上する金額を自由に決められる「任意償却」が選ばれるのが一般的です。赤字のときは0円で計上し、黒字に転向してから償却できるので、開業したばかりで収入が安定していない人もしっかり節税につなげられます。

※仕訳帳は、必要不可欠な帳簿(主要簿)の一つ。様式に決まりはないので、紙でもウェブでも使いやすいほうで記帳しましょう、

赤字繰り越しをする場合は青色申告を選ぼう

開業したばかりは赤字になっているケースが多いので、赤字繰り越しができる青色申告を選ぶのが一般的です。赤字を繰り越すことで節税につながります。

例えば、開業1年目に100万円の損失が生じたとします。青色申告の場合、赤字を繰り越せるので、翌年に生じた利益から損失した100万円を差し引けます。500万円の利益が生じていたら100万円を引いて、400万円を軸に計算できるというわけです。

一方の白色申告は赤字繰り越しはできないので、500万円に対しての所得税や住民税を支払わなければいけません。2年間で得られた利益は400万円(利益500万円ー開業費100万円)でも、白色申告の場合は500万円に対しての税金が課せられるのです。

赤字は翌年以降3年間の繰り越しが可能です。開業費は任意償却できるので、上手くやりくりすれば節税につながります。

税制度を確認して開業準備を進めよう

開業資金は繰延資産で処理し、複数年に分けて経費として償却するのが正しい方法です。とはいっても、税金や簿記などについてあまり知識がないと不安に感じることも多いでしょう。専門家に相談できれば不安を解消するだけでなく、節税に関する知識も得られるはずです。また、開業資金についても相談できれば、事業をスムーズに始められるでしょう。

税金まわりをはじめ、開業資金に関する相談先を探している人には、こちらの記事がおすすめです。

開業資金の相談先一覧|選び方や相談のコツ・費用を解説

公開日:2022年05月30日

よくある質問

Q 何年も前の開業費であっても、確定申告はできますか? 回答を見る
Q 青色申告をする場合、どのような手続きが必要ですか? 回答を見る

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